第61話 記憶を司る者
星降る丘で一夜を明かしたロン毛。
朝になっても、昨夜聞こえた声は頭から離れなかった。
「その曲……好きだよ。」
確かに聞こえた。
夢ではない。
ロン毛「絶対にいた。」
風「いたかもしれない。」
ロン毛「曖昧だな。」
風「風だから。」
ロン毛「便利な言葉だ。」
朝日が丘を照らす。
すると、昨夜は気づかなかった石碑が木の根元にあることに気づいた。
そこには古い文字で、
『記憶の流れは湖へ集う』
と刻まれていた。
ロン毛「湖。」
地図を広げる。
老人からもらった地図。
その端。
北東の方角に、小さく書かれていた。
『記憶の湖』
そして。
さらにその先。
ほとんど消えかけた文字。
『ナムネの神殿』
ロン毛「ナムネ。」
虹が昔、一度だけ口にした名前。
老人が語った、記憶を司る者。
ロン毛「行くしかないな。」
木「遠いぞ。」
ロン毛「そうか。」
星「迷うぞ。」
ロン毛「いつものことだ。」
風「頑張れ。」
ロン毛「おう。」
そして数日。
ロン毛は山を越え。
川を渡り。
花畑を抜けた。
その途中。
古びた祠を見つける。
誰もいない。
しかし。
中には一冊の本が置かれていた。
ロン毛「なんだ。」
本「勝手に開けるな。」
ロン毛「喋った。」
本「失礼な人間だ。」
ロン毛「悪い。」
本「まあいい。」
ロン毛「お前は。」
本「神殿の案内係。」
ロン毛「便利だな。」
本「そうでもない。」
ロン毛「ナムネの神殿を知ってるか。」
本「知っている。」
ロン毛「本当か!」
本「だが。」
ロン毛「だが?」
本「行く覚悟はあるか。」
ロン毛「覚悟。」
本「記憶とは優しいものばかりではない。」
本「忘れたいこと。後悔。悲しみ。」
本「全部見ることになる。」
ロン毛「……。」
本「それでも行くか。」
ロン毛は食い気味に答えた
ロン毛「行く。」
本「即答か。」
ロン毛「虹に会いたいから。」
本「馬鹿だな。」嫌いじゃない。」
本はページをめくる。
すると。
地図が浮かび上がった。
本「記憶の湖の先。」
本「白い階段。」
本「その先に。」
本「ナムネの神殿がある。」
ロン毛「ありがとう。」
本「ナムネ様は優しい。だが。時々意地悪だ。」
ロン毛「怖いな。」
本「記憶を司る者だから。」
ロン毛「そういうものか。」
本「そして、もし虹に会えたとしても。」
本「お前が知っている虹とは。」
本「同じとは限らない。」
ロン毛「……。」
本「それでも会いたいか。」
ロン毛「会いたい。」
本「なら、進め。」
本は静かに閉じた。
その時。
遠くから。
小さな声が聞こえた。
「ロン毛。」
ロン毛「!」
振り向く。
誰もいない。
ただ。
白い花びらが風に揺れていた。
そして。
遥か遠く。
巨大な湖のほとり。
白い神殿の最上階。
一人の少女が本を閉じた。
少女「来るんだ。」
穏やかな瞳。
少女「人間がここまで来るなんて。」
少女は窓の外を見つめる。
少女「久しぶりだね。」
少女「ロン毛。」
そして。
机の上には。
一枚の写真。
そこには。
笑う虹と。
その隣でギターを抱えるロン毛が写っていた。
少女は小さく微笑んだ。
ナムネ「さて。」
ナムネ「どこまで思い出せるかな。」
白い神殿の鐘が。
静かに鳴り響いていた。




