第59話 追憶の遊園地
老人の家を出てから数日。
ロン毛は「追憶の森」を進んでいた。
昼も夜も曖昧な、不思議な森。
足元には小さな花。
木々の間には、誰かの笑い声のような風。
そして。
地図にない道を抜けた時だった。
ロン毛「……。」
ロン毛「なんだこれ。」
森の向こうに。
大きな観覧車が見えた。
赤いジェットコースター。
メリーゴーランド。
ゲームコーナー。
古びた遊園地。
しかし。
人影はない。
動いているはずのない観覧車が、ゆっくり回っていた。
ロン毛「誰もいない。」
???「いらっしゃい。」
門が軋みながら開く。
看板が勝手に揺れた。
看板「追憶遊園地へようこそ。」
ロン毛「看板が喋った。」
観覧車「久しぶりのお客さん。」
ベンチ「座るかい。」
ジェットコースター「叫びたいなら乗れ。」
ロン毛「なんなんだここ。」
メリーゴーランド「思い出の場所。」
観覧車「お前のな。」
ロン毛「俺の。」
観覧車「見たいか。」
ロン毛「何を。」
観覧車「大事だったもの。」
ロン毛「……見る。」
その瞬間。
遊園地全体が光り始めた。
・・・
春。
雨上がり。
空に大きな虹。
虹「やっと会えた!」
ロン毛「初対面だろ!」
虹「私はずっと見てたから!」
・・・
桜の下。
虹「団子かわいい!」
ロン毛「食べ物だぞ。」
虹「かわいい!」
・・・
かいちょとお茶をする虹。
虹「優しい人なんだよ!」
かいちょ「その気持ち、恋じゃね。」
・・・
夕焼けの帰り道。
虹「ロン毛といると楽しいなぁ。」
ロン毛「俺も。」
・・・
夜の公園。
虹「もし私がいなくなったらどうする?」
ロン毛「また会えるだろ。」
虹「えへへ。」
でも。
その笑顔は少し寂しそうだった。
・・・
そして。
雨。
激しい雨。
雨雲「帰る時が近い。」
ロン毛「なんで話してくれなかったんだ!」
虹「言えるわけないでしょ!」
ロン毛「俺だけ知らないなんて嫌だ!」
虹「どうせ消える私なんてどうでもいいんでしょ!」
ロン毛「そんなわけ!」
虹「もう知らない!」
七色の涙。
雨の中。
走り去る虹。
・・・
ロン毛「……。」
ロン毛「やめろ。」
観覧車「まだある。」
ロン毛「もういい。」
メリーゴーランド「まだ。」
ロン毛「もういい!」
すると。
小さな光が現れた。
幼い頃のロン毛。
夏の日。
空を見上げる少年。
その上には。
小さな虹。
さらに。
小学生の頃。
中学生の頃。
高校生の頃。
大学生になった頃。
失業して電柱に頭をぶつけた日。
どの空にも。
遠くに虹があった。
ロン毛「……。」
ロン毛「お前。」
ロン毛「ずっといたのか。」
虹の声。
「見てたよ。」
「ずっと。」
「ロン毛のこと。」
「歌う時も。」
「泣いてる時も。」
「笑ってる時も。」
「ずっと。」
「やっと会えたって。」
「嬉しかったんだよ。」
ロン毛「……。」
ロン毛の頬を涙が伝う。
そして。最後に。あの日の雨。
泣きながら走る虹。振り返りながら。
虹「もう知らない!」
その声の奥。
小さく。誰にも聞こえないくらいの声。
虹「ごめんね。」
ロン毛「……。」
ロン毛「違う。謝るのは俺の方だ。」
静かな遊園地。
観覧車も。
ジェットコースターも。
何も言わない。
ロン毛は涙を流しながら空を見上げた。
ロン毛「虹。」
ロン毛「会いてぇよ。」
ロン毛「会えたら。」
ロン毛「今度こそ。」
ロン毛「ちゃんと謝る。」
ロン毛「ありがとうも。」
ロン毛「好きだも。」
ロン毛「全部言う。」
ロン毛「だから。」
ロン毛「もう一度。」
ロン毛「会わせてくれ。」
すると。
風が吹いた。
そして。
メリーゴーランドが静かに回り始めた。
メリーゴーランド「約束だ。」
観覧車「忘れるな。」
看板「次の目的地。」
看板には新しい文字が浮かんでいた。
『星降る丘』
そして。
その下には。
誰かの字で。
小さくこう書かれていた。
『待ってるよ。』




