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虹とロン毛  作者: かいちょ
第3章 虹を探す旅
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第57話 老人とアシスとナムネの噂

 翌朝。

 夕暮れの村を後にしたロン毛は、東を目指して歩いていた。

 朝霧の丘を越え。

 小川を渡り。

 誰も通らない獣道を進む。

 昼を過ぎる頃には、深い森へ入っていた。


 ロン毛「静かだな。」


 木々「そうでもない。」


 ロン毛「そうか。」


 鳥「旅人。」


 ロン毛「ん。」


 鳥「もうすぐ。」


 ロン毛「?」


 鳥「変なじいさんの家。」


 ロン毛「変なじいさん。」


 鳥「変。」


 ロン毛「大丈夫か。」


 鳥「知らない。」


 しばらく歩くと。

 木々の間に小さな家が見えてきた。

 古びた木の家。

 煙突から白い煙。

 庭には花。

 軒先には風鈴。


 ロン毛「ここか。」


 コンコン。

 返事はない。


 ロン毛「すいませーん。」


 すると。

 後ろから声がした。

 老人「七色を追う者か…。」


 ロン毛「うわ!」


 振り向くと。

 白髪の老人が薪を抱えて立っていた。


 ロン毛「びっくりした。」


 老人「すまん。足音が静かだとよく言われるのじゃ。」


 ロン毛「忍者か。」


 老人「ただのじじいじゃ。」


 ロン毛「そうか。」


 老人「中へ入れ。」


 ロン毛「お邪魔します。」


 家の中には、本が山のように積まれていた。

 天井まで届く本棚。

 地図。

 古い時計。

 不思議な石。

 そして壁には、大きな空の絵が飾られていた。


 老人「茶でも飲め。」


 ロン毛「ありがとう。」


 老人「虹を探しておるのじゃろ。」


 ロン毛「知ってるのか。」


 老人「村の風がうるさくてな。」


 ロン毛「また風か。」


 老人「よく喋る奴じゃ。」


 ロン毛「ほんとにな。」


 老人は湯呑みを置くと、ゆっくり椅子に腰掛けた。


 老人「お前が知りたいのはきっと昔話じゃ。」


 ロン毛「昔話?」


 老人「イデア界には二柱の存在がおる。」


 ロン毛「二柱。」


 老人「調和を司る者。」


 老人「『アシス』。」


 老人「記憶を司る者。」


 老人「『ナムネ』。」


 その名前を聞いた瞬間。

 ロン毛は目を見開いた。


 ロン毛「ナムネ。」


 老人「知っとるか。」


 ロン毛「名前だけ。」


 老人「ほう。」


 ロン毛「虹が言ってた。」


 老人「虹が。」


 ロン毛「人間の姿になれたのはナムネねーちんに頼んだからって。」


 老人「……。」


 老人は目を細めた。


 老人「そうか。」


 老人「虹と会っておったのか。」


 ロン毛「知ってるのか。」


 老人「いや。会ったことはない。」


老人は間を開けて語り出した。


 老人「だが。」

 老人「遠い昔アシスとナムネは空の均衡を守っておった。」


 ロン毛「均衡?」


 老人「春と夏。」

 老人「雨と晴れ。」

 老人「出会いと別れ。」

 老人「記憶と忘却。」

 老人「全てが崩れぬよう見守っておった。」


 ロン毛「神様みたいだな。」


 老人「神かどうかは知らん。」


 老人「だが。今では誰も姿を見たことがない。」


 ロン毛「いないのか。」


 老人「長い年月じゃ。」


 老人「噂だけが残った。」


 ロン毛「……。」


 老人「もし。虹を探すのなら、いつかその名を持つものと会うことになるじゃろう。」


 

 老人「お前さん。」


 ロン毛「ん?」


 老人「怖いか。」


 ロン毛「何が。」


 老人「見つけた先じゃ。」


 ロン毛「……。」


 老人「虹に会えるとは限らん。」

 老人「会っても。昔のままとは限らん。」


 ロン毛「……。」


 老人「それでも探すか。」


 ロン毛は少しだけ考えた。

 そして。

 静かに答えた。


 ロン毛「探す。」


 老人「そうか。」


 ロン毛「会えなくても。」

 ロン毛「嫌われてても。」

 ロン毛「忘れられてても。」

 ロン毛「俺は。」

 ロン毛「会いたい。」


 老人「……。」

 老人は小さく笑った。


 老人「馬鹿じゃな。」


 ロン毛「よく言われる。」

 

 老人「次は北へ行け。」


 ロン毛「北。」


 老人「記憶の遊園地、そこでお前さんを待つ者がおる。」


 窓の外。


 風鈴が静かに鳴る。


 チリン。

 そして。

 誰もいないはずの庭で。

 七色の花びらが一枚だけ。

 ふわりと風に乗って舞っていた。


 ロン毛「……。」

 ロン毛「虹。」

 しかし。

 その花びらは。

 ロン毛の手に届く前に、光となって消えていった。

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