第56話 夕暮れの村
空白の町を出たロン毛はひたすらに歩った。
ロン毛「広いな。」
風「頑張ってるな。」
ロン毛「お前も来てたのか。」
風「ちょっとだけ。」
ロン毛「虹、見なかったか。」
風「見てない。」
ロン毛「そうか。」
風「でも。」
風「泣いてばかりだった頃より顔がいい。」
ロン毛「うるさい。」
風「ふふ。」
やがて。
遠くに灯りが見えた。
ロン毛「村か。」
小さな村だった。
石畳の道。
木造の家々。
川のせせらぎ。
暖かな明かり。
そして、夕焼けの色が消えない空。
ロン毛「変な空だな。」
空「夕暮れが好きなんだ。」
ロン毛「そうか。」
ロン毛は村へ入った。
すると。
花屋の店先にいた猫が目を丸くした。
猫「おや。」
猫「旅人だ。」
近くで井戸を見ていたヤギも振り向く。
ヤギ「人間?」
鳥「珍しい。」
ロン毛「お前らも喋るのか。」
猫「ここはイデア界だ。」
ヤギ「普通さ。」
そして。
近所の人たちも顔を出した。
老婆「まあ。」
青年「噂の。」
少女「虹を探す旅人だ!」
ロン毛「え?」
老婆「やっぱり来たんだね。」
青年「本当に人間だったのか。」
ロン毛「なんで知ってる。」
少女「風さんが言ってた!」
風「言った。」
ロン毛「お前かい!」
少女「虹さん探してるんでしょ?」
ロン毛「うん。」
少女「会えるといいね!」
ロン毛「ありがとう。」
すると。
村の奥から、年配の男性がやってきた。
主人「旅人さん。」
ロン毛「?」
主人「泊まる場所がないだろ。」
ロン毛「ああ、ない。」
主人「宿ならある。」
ロン毛「助かる。」
主人「安いぞ。」
ロン毛「金持ってない。」
主人「知ってる。」
ロン毛「おい。」
主人「朝、薪割りでもしてくれればいい。」
ロン毛「安いな。」
主人「困った時はお互い様。」
宿屋は小さかった。
古い時計。
木の床。
暖炉。
どこか懐かしい空気。
夕食のスープを飲みながら、ロン毛は天井を見上げていた。
主人「虹さんか。」
ロン毛「知ってるのか。」
主人「顔は知らん。」
主人「でも噂なら。」
ロン毛「噂?」
主人「虹を探してる人間がいる。」
主人「変わり者で髪が長いってな。」
ロン毛「ひでぇ。」
主人は笑った。
主人「実は昔、似たような旅人がいた。」
ロン毛「本当か。」
主人「大切な人を探してた。」
ロン毛「見つかったのか。」
主人「さあ。」
主人「私は知らん。」
ロン毛「おい。」
主人「ただ、東の果てに老人がいる。」
ロン毛「老人?」
主人「ああ。知識の老人。」
主人「昔から色んなことを知っている。」
主人「そいつのこと知ってるか?」
ロン毛「知らない。」
主人「なら会いに行くといい。」
主人「東の果て。」
主人「朝霧の丘の向こう。そこで長いこと暮らしている。」
ロン毛「そうか。」
主人「今日は寝なさい。」
ロン毛「うん。」
主人「旅人。」
ロン毛「ん?」
主人「焦るな。」
主人「会いたい気持ちは。」
主人「急いでも、ゆっくりでも変わらん。」
ロン毛「……。」
主人「ちゃんと歩いてれば。道の方が近づいてくる。」
夜。
窓の外には、夕焼け色の星空。
ロン毛は布団に横になった。
そして。
眠る前。
小さく呟いた。
ロン毛「待ってろ。虹。」
すると。
どこからか。
懐かしい声が聞こえた気がした。
「えへへ!」
ロン毛「……。」
ロン毛「気のせいか。」
その夜。
ロン毛は久しぶりに。
少しだけ穏やかな顔で眠りについた。




