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虹とロン毛  作者: かいちょ
第3章 虹を探す旅
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第52話 記憶の扉

 虹がいなくなってから一週間。

 ロン毛は以前のように家に閉じこもることはなくなった。


 しかし。


 前のように笑うこともなかった。


 朝になれば散歩をし。


 昼は水族館でバイトをし。


 夜になれば空を見上げる。


 そして。


 虹のことを考えていた。


 この日も、ロン毛は川沿いを歩いていた。


 ロン毛「風。」


 風「ん?」


 ロン毛「イデア界って知ってるか。」


 風「知ってる。」


 ロン毛「行き方は?」


 風「知らん。」


 ロン毛「知らんのか。」


 風「私は吹くだけだ。」


 ロン毛「役に立たねぇな。」


 風「失礼な。」


 しばらくすると、空に雲が流れてきた。


 ロン毛「雲。」


 雲「どうした。」


 ロン毛「イデア界に行く方法知ってるか。」


 雲「知らない。」


 ロン毛「お前もか。」


 雲「私は流れるだけ。」


 ロン毛「みんなそれだな。」


 翌朝。


 ロン毛「夏の朝。」


 夏の朝「春だけど。」


 ロン毛「知ってる?」


 夏の朝「イデア界について?」


 ロン毛「行き方とか。」


 夏の朝「ごめん。」


 夏の朝「知らない。」


 ロン毛「そうか。」


 夏の朝「でも。」


 夏の朝「きっと見つかるよ。」


 ロン毛「だといいけどな。」


 誰も知らない。


 誰に聞いても答えはない。


 それでも。


 ロン毛は諦められなかった。


 夕方。


 水族館のバイト。

 バックヤードで、いつもの水槽を眺めていた。


 その中では、いつも通りくるまえびが元気に泳いでいる。


 ロン毛「お前。」


 くるまえび「なんだ。」


 ロン毛「イデア界って知ってるか。」


 くるまえび「知らん。」


 ロン毛「お前もか。」


 くるまえび「だが。」


 ロン毛「?」


 くるまえび「しっぽを見てよ。」


 ロン毛「しっぽ?」


 くるまえび「虹でしょ。」


 ロン毛「……。」


 確かに。

 水槽の光を受けたくるまえびのしっぽは、七色に輝いていた。


 ロン毛「ほんとだ。」


 くるまえび「きれいだろ。」


 ロン毛「ああ。」


 くるまえび「……。」


 ロン毛「……。」


 くるまえび「……。」


 ロン毛「眠い。」


 くるまえび「寝ろ。」


 ロン毛「おう。」


 ロン毛は椅子にもたれかかった。

 そして。


 静かに目を閉じた。


 ・・・


 ・・・


 ・・・


 カタン。


 カタン。


 ロン毛「……。」

 ロン毛「ん?」


 気がつくと。

 見知らぬホームのベンチに座っていた。


 ロン毛「どこだ?」


 空は夕焼けでも朝でもない。

 時間の止まったような空。

 誰もいない駅。

 古びた時計。

 風も吹かない。


 駅名標には。


 『記憶の駅』


 と書かれていた。


 ロン毛「記憶の駅?」


 ???「ようこそ。」


 ロン毛「!」


 振り返ると。

 駅員帽をかぶった、一羽のフクロウが立っていた。


 フクロウ「初めてか。」


 ロン毛「フクロウ?」


 フクロウ「駅員だ。」


 ロン毛「ここは。」


 フクロウ「現実とイデア界の境目。」


 フクロウ「記憶の駅。」


 ロン毛「……。」


 フクロウ「珍しい。」


 フクロウ「人間が来るとは。」


 ロン毛「夢か?」


 フクロウ「夢でもあり。」


 フクロウ「夢ではない。」


 ロン毛「難しいな。」


 フクロウ「駅とはそういうものだ。」


 ロン毛「駅か。」


 フクロウ「さて。」


 フクロウは小さな懐中時計を取り出した。


 フクロウ「探し人がいるのだろう。」


 ロン毛「!」


 ロン毛「虹。」


 フクロウ「知っている。」


 ロン毛「会えるのか!」


 フクロウ「さあ。」


 ロン毛「おい。」


 フクロウ「だが。」


 フクロウ「探し人がいるなら。」


 フクロウ「先へ進め。」


 ホームの先。


 霧の中。


 誰もいない線路が、どこまでも続いていた。


 ロン毛「……。」


 フクロウ「乗り遅れるなよ。」


 ロン毛「電車なんて来るのか?」


 フクロウ「そのうち来る。」


 ロン毛「適当だな。」


 フクロウ「駅員だからな。」


 ロン毛「意味分からん。」


 すると。


 遠くから。


 ガタン。


 ゴトン。


 ガタン。


 ゴトン。


 列車の音が聞こえてきた。


 そして。


 霧の向こうから現れた列車の行き先には。


 『思い出線』


 と書かれていた。

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