第48話 夕焼けの約束
五月。
空はすっかり春から初夏へと変わり始めていた。
川沿いの緑も濃くなり、夕方になると涼しい風が心地よく吹く。
この日、虹は少し用事があると言って先に帰り、ロン毛は一人で土手を歩いていた。
ロン毛「静かだな。」
風「今日は一人か。」
ロン毛「たまにはな。」
風「寂しそう。」
ロン毛「別に。」
風「ふーん。」
空を見ると、西の空が赤く染まっていた。
夕焼け「今日も一日終わるね。」
ロン毛「おっ、夕焼けか。」
夕焼け「久しぶり。」
ロン毛「そうだな。」
夕焼け「最近、楽しそう。」
ロン毛「まあな。」
夕焼け「大切な人ができた?」
ロン毛「……。」
夕焼け「図星なんだよな。」
ロン毛「みんなそういう話好きだな。」
夕焼け「好きというより。」
夕焼け「知っているんだ。大切なものほど。失う前に伝えなさい。」
ロン毛「また重いこと言うな。」
夕焼け「笑い事じゃない。」
ロン毛「……。」
夕焼け「言葉は残る。」
夕焼け「言わなかった言葉も、残る。」
ロン毛「そんな簡単に言えるなら苦労しない。」
夕焼け「それでも、後悔するよりはいい。」
ロン毛「……。」
夕焼け「大切にしなさい、今を。」
赤く染まった空は、ゆっくりと夜に溶けていった。
その夜。
ロン毛と虹は、いつもの公園で会っていた。
街灯がぽつぽつと灯り始めている。
ベンチに座る二人。
珍しく、虹は静かだった。
ロン毛「どうした?」
虹「ん。」
ロン毛「元気ないな。」
虹「そうかな。」
ロン毛「そう。」
虹「……。」
ロン毛「なんかあった?」
虹「ねぇ。」
ロン毛「ん?」
虹「もし。」
虹「もし私がいなくなったら、どうする?」
ロン毛「ん?」
ロン毛「なんだ急に。」
虹「もしも。」
ロン毛「旅行か?」
虹「違う。」
ロン毛「遠くに行くのか?」
虹「ううん。」
ロン毛「じゃあなんだ。」
虹「もしもの話。」
ロン毛「変なこと言うな。」
虹「いいから。」
ロン毛「そうだなぁ。」
ロン毛は少し考えた。
そして笑った。
ロン毛「また会えるだろ。」
虹「……。」
ロン毛「お前だぞ?虹なんだから消えてもまた出てくる。」
ロン毛「また会えるさ。」
虹「……。」
ロン毛「なんだよ。」
虹「ううん。」
虹「そうだよね。」
ロン毛「当たり前。」
虹「えへへ。」
虹は笑った。
でもその笑顔は少しだけ寂しそうだった。
ロン毛「どうした?」
虹「なんでもない!」
ロン毛「変なやつ。」
虹「ロン毛。」
ロン毛「ん?」
虹「ありがとう。」
ロン毛「何が。」
虹「秘密。」
ロン毛「またそれか。」
虹「うん。」
虹は空を見上げた。
星の見えない夜空。
その表情は。
どこか少しだけ曇っていた。
そして。
ロン毛はまだ知らない。
虹が時折見せる、その寂しそうな顔の意味を。
知らないまま。
今日もまた。
二人は笑い合っていた。




