第47話 言えない言葉
四月も終わりに近づいていた。
満開だった桜はすっかり散り、川沿いには新しい緑が広がっている。
暖かい風。
夕暮れの空。
どこか初夏の気配を感じる季節だった。
この日もロン毛と虹は、いつもの土手を歩いていた。
虹「今日は風が気持ちいいね!」
ロン毛「そうだな。」
虹「春も終わりかぁ。」
ロン毛「早いな。」
虹「でも、夏も好き!」
ロン毛「気が早いな。」
虹「えへへ!」
虹は笑う。
いつもの笑顔。
でも最近、その笑顔を見るたびにロン毛の胸は少しだけ苦しくなる。
ロン毛(好きなんだよな。)
ロン毛(たぶんじゃなくて。)
ロン毛(好きなんだ。)
隣で笑っているだけで嬉しい。
会えない日は少し寂しい。
もっと一緒にいたい。
そんなことを考えるようになっていた。
しかし。
ロン毛(相手は虹だぞ。)
ロン毛(空にかかる虹だ。)
ロン毛(俺なんかが好きになっていいのか。)
ロン毛(ずっとエナドリ飲んでて、バイトして、ライブも客少ないし。)
ロン毛(俺なんか釣り合わないよな。)
ロン毛「……。」
虹「どうした?」
ロン毛「いや。」
ロン毛「なんでもない。」
虹「変なロン毛。」
虹は笑った。
しかし。
虹の方もまた、同じことを考えていた。
虹(好き。)
虹(ロン毛のこと好き。)
虹(会えると嬉しい。)
虹(声を聞くと安心する。)
虹(もっと一緒にいたい。)
虹(これが恋なんだ。)
でも。
虹(もし嫌われたら。)
虹(変な空気になったら。)
虹(会えなくなったら。)
虹(今みたいに笑えなくなったら。)
虹(どうしよう。)
虹「……。」
ロン毛「ん?」
虹「なんでもない!」
ロン毛「そうか。」
二人は笑った。
そして沈黙。
いつもならすぐに話し出す虹も、今日はどこか静かだった。
風「おい。」
ロン毛「ん?」
風「なんか元気ないな。」
ロン毛「そうか?」
風「そうだ。」
ロン毛「別に。」
風「ふーん。」
風はニヤニヤしていた。
風「青春だな。」
ロン毛「うるさい。」
風「素直になれ。」
ロン毛「嫌だ。」
風「なんで。」
ロン毛「怖い。」
風「馬鹿だな。」
ロン毛「うるさい。」
一方。
虹も空を見上げていた。
雲「悩み事?」
虹「えっ?」
虹「雲さん!」
雲「珍しい。」
雲「元気ないな。」
虹「うん。」
雲「ロン毛のこと?」
虹「えっ!?」
雲「当たり。」
虹「そんな顔してた?」
雲「してた。」
虹「……。」
雲「好きなんだろ。」
虹「うん。」
雲「言えば?」
虹「怖い。」
雲「嫌われると思う?」
虹「うん。」
雲「ふふ。」
雲「それなら向こうも同じ顔してるぞ。」
虹「え?」
雲「秘密。」
虹「もう!」
夕日が空を赤く染めていく。
二人は並んでベンチに座る。
虹「ロン毛。」
ロン毛「ん?」
虹「私ね。」
ロン毛「うん。」
虹「……。」
ロン毛「?」
虹「なんでもない!」
ロン毛「変なやつ。」
虹「ロン毛こそ!」
ロン毛「はは。」
虹「えへへ。」
笑い合う二人。
好きなのに。
大切だからこそ。
壊れるのが怖い。
あと一歩。
その一歩が。
二人には、なかなか踏み出せなかった。
初夏の風は、そんな二人を見て。
少しだけ、もどかしそうに吹いていた。




