第46話 菜の花と帰り道
四月。
春も深まり、川沿いの土手には菜の花が一面に咲いていた。
桜は少しずつ散り始めていたが、その代わりに鮮やかな黄色が春の景色を彩っている。
最近のロン毛と虹は、毎日のように会っていた。
バイト帰り。
散歩。
ギターの練習。
商店街。
公園。
特別なことをしているわけではない。
ただ一緒にいる。
それだけで楽しかった。
夕暮れの土手。
風が優しく吹く。
虹「きれい!」
ロン毛「菜の花か。」
虹「うん!」
虹「春って色がいっぱいだね!」
ロン毛「お前も色だらけだけどな。」
虹「えへへ!」
二人はゆっくり歩く。
夕日が川を赤く照らしていた。
虹「散歩も、ギターも、おしゃべりも全部好き!」
ロン毛「そっか。」
虹「ロン毛は?」
ロン毛「俺?」
虹「うん!」
ロン毛「俺も楽しいよ。」
ロン毛「毎日退屈しないしお前といると、前よりなんか笑うこと増えたし。」
虹「えへへ。」
虹は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ると。
ロン毛の胸も少し暖かくなる。
ロン毛(好き、なんだろうな。)
ロン毛(たぶん。)
ロン毛(いや、たぶんじゃないか。)
ロン毛(好きなんだろう。)
でも。
なぜか言えない。
なんとなく恥ずかしい。
今のままでも十分楽しい。
もし変わってしまったら。
そんなことを考えてしまう。
そんな帰り道。
虹「また明日ね!」
ロン毛「おう。」
虹「絶対だよ!」
ロン毛「はいはい。」
虹「えへへ!」
虹は嬉しそうに手を振りながら消えていった。
ロン毛は一人になり、家の前まで帰ってくる。
いつもの電柱が立っていた。
電柱「遅かったな。」
ロン毛「散歩してた。」
電柱「知ってる。」
ロン毛「見てたのか。」
電柱「立ってるからな。」
ロン毛「便利だな。」
電柱「最近、よく笑うな。」
ロン毛「そうか?」
電柱「そうだ。」
ロン毛「まあ、楽しいし。」
電柱「好きなんだろ彼女のことが。」
ロン毛「ぶっ。」
電柱「図星か。」
ロン毛「急になんだよ!」
電柱「言わないと後悔するぞ。」
ロン毛「何を。」
電柱「好きだと。」
ロン毛「……。」
電柱「気づいてるんだろ。」
ロン毛「まあ。」
電柱「なら言え。」
ロン毛「無理。」
電柱「なぜ。」
ロン毛「恥ずかしい。」
電柱「24にもなって。」
ロン毛「うるさい。」
電柱「今のままでいいと思ってるか?」
ロン毛「悪いか。」
電柱「悪くはない。」
電柱「だが、言わなかった言葉は残る。」
ロン毛「難しいこと言うな。」
電柱「長く立ってるからな。」
ロン毛「はいはい。」
電柱「笑ってごまかすな。」
ロン毛「別に。」
電柱「後悔するぞ。」
ロン毛「その時はその時だ。」
電柱「馬鹿者。」
ロン毛「電柱に言われたくない。」
電柱「そうか。」
夜風が吹く。
ロン毛は空を見上げた。
明日もきっと虹と会う。
明後日も。
その次の日も。
当たり前のように。
ずっと。
そう思っていた。
だから。
まだ。
言わなくてもいいと思っていた。
夕暮れの菜の花は、ただ静かに揺れていた。




