第5話 かいちょ録 散歩とロン毛
高校二年の春。
ロン毛とかいちょが仲良くなったのは、本当に些細なことだった。
気がつけば話してて。
気がつけば昼飯のおにぎり食べさせてて。
気がつけば、放課後に散歩するようになっていた。
別に約束なんかしない。
「帰るか。」
その一言で十分だった。
夕焼けの帰り道。
ロン毛はイヤホンを片方つけながら歩っていた。
かいちょ 「何聴いてんの?」
ロン毛 「森谷辰哉。」
かいちょ 「誰。」
ロン毛 「知らんのか。」
かいちょ 「知らん。」
ロン毛 「人生損してる。」
かいちょ 「そんなに?」
ロン毛 「そんなに。」
森谷辰哉の新曲の「きらびやかなくさ」のイントロ数秒後。
かいちょ 「おお、すご。」
ロン毛 「だろ。」
かいちょ 「かっこいい。」
ロン毛 「だろ。」
かいちょ 「ギターやば。」
ロン毛 「だろ。」
かいちょ 「なんか夕焼けに合うな。」
ロン毛 「だろ。」
かいちょ 「お前、『だろ』しか言わんな。」
二人は笑った。
次の日。
かいちょ 「昨日の森谷辰哉、また聴いた。」
ロン毛 「まじか。」
かいちょ 「ハマった。」
ロン毛 「ようこそ。」
かいちょ 「夜中に三時間くらい聴いて泣いてた。」
ロン毛 「病気だな。」
かいちょ 「お前のせい。」
ロン毛 「知らん。」
かいちょ 「なんか元気出る。」
ロン毛 「だろ。」
かいちょ 「また『だろ』。」
それから。
二人は毎日のように散歩した。
意味もなく。
目的もなく。
ただ歩いた。
商店街。
公園。
川沿い。
住宅街。
学校の周り。
話す内容も適当だった。
かいちょ 「学校どうする?」
ロン毛 「知らん。」
かいちょ 「結婚できっかなおれ。」
ロン毛 「……」
かいちょ 「宇宙人いると思う?」
ロン毛 「はい」
かいちょ 「好きなラーメンは?」
ロン毛 「別に、どれでも。」
かいちょ 「それは答えるんだ。」
ロン毛 「大事だから。」
二人は大笑いした。
文化祭前。
ギターを持って歩きながら。
かいちょ 「森谷辰哉みたいになれるかなお前。」
ロン毛 「無理。」
かいちょ 「即答。」
ロン毛 「でも。」
かいちょ 「うん。」
ロン毛 「俺は好きだからやる。」
かいちょ 「かっけぇ。」
ロン毛 「そうか?」
かいちょ 「うん。」
ロン毛 「じゃあ応援しろ。」
かいちょ 「任せろ。」
夏休み。
夕暮れ。
スーパーで買った95円の炭酸。
二人でベンチに座る。
かいちょ 「なあ。」
ロン毛 「なんだ。」
かいちょ 「こんな毎日、いつか終わるのかな。」
ロン毛 「終わるだろ。」
かいちょ 「嫌だな。」
ロン毛 「なんで。」
かいちょ 「楽しいから。」
ロン毛 「そうだな。」
かいちょ 「大人になっても散歩しような。」
ロン毛 「暇ならな。」
かいちょ 「約束。」
ロン毛 「別に。」
かいちょ 「なんだよそれ。」
ロン毛 「散歩に約束なんかいらん。」
かいちょ 「たしかに。」
二人は笑った。
数年後。
失業しても。
悩んでも。
上手くいかなくても。
ロン毛は時々思い出す。
高二の夕焼け。
何も持っていなかった。
でも、毎日笑っていた。
好きな音楽を語って。
くだらない話で笑って。
ただ歩いていた。
そして思う。
あの頃は特別じゃなかった。
だからこそ、特別だったのかもしれない。
そんなことを考えながら、電車に乗った。
目の前にはかいちょではない見たことあるやつが乗っていた。




