第40話 春の雨と虹
三月。
長かった冬も終わりを迎え、街には少しずつ春の匂いが漂い始めていた。
この日、ロン毛はバイト帰りだった。
昼過ぎから降っていた雨も、夕方には止み、濡れたアスファルトが夕日に照らされている。
ロン毛「いやぁ、疲れた。」
ロン毛「今日は客多かったな。」
風「お疲れ。」
ロン毛「おう。」
風「雨もよく頑張った。」
ロン毛「お前らも大変だな。」
風「まあな。」
ロン毛は笑いながら、いつもの帰り道を歩く。
すると。
空の向こうに、大きな虹がかかっていた。
ロン毛「おっ。」
ロン毛「綺麗だな。」
七色に輝く、春の虹。
なんとなく。
本当に、なんとなく。
ロン毛は空を見上げて声をかけた。
ロン毛「今日もお疲れさん。」
すると。
少女のような声が返ってきた。
虹「……え?」
虹「今、私に話しかけた?」
ロン毛「え?うん。」
虹「え?」
ロン毛「え?」
虹「え?」
一瞬、時が止まる。
虹「きゃあっ!?聞こえるの!?」
ロン毛「聞こえてるよ。」
虹「本当に!?うそ!」
ロン毛「うそじゃない!」
二人はしばらく混乱した。
風はどこか嬉しそうに吹いている。
風「やっとか。」
ロン毛「やっと?」
風「なんでもない。」
虹「すごい……。」
虹「私の声が聞こえる人、初めて。」
ロン毛「電柱のせいだよ」
虹「ふふふ。」
少女のような声だった。
明るくて。
優しくて。
どこか嬉しそうな声。
ロン毛「名前とかあるの?」
虹「虹!」
ロン毛「そのまんまか。」
虹「だって虹だもん!」
ロン毛「そりゃそうか。」
二人は笑った。
不思議と、初めて話した気がしなかった。
すると。
虹が少しだけ静かになる。
虹「ねぇ。」
ロン毛「ん?」
虹「本当に、聞こえてる?」
ロン毛「聞こえてるよ。」
虹「そっか。」
虹「よかった。」
ロン毛「?」
虹「やっと会えた。」
ロン毛「初対面だろ?」
虹「ううん。」
虹「私はずっと、君のこと見てたから。」
ロン毛「え?」
虹「ライブしてる時も。」
虹「散歩してる時も。」
虹「雪と話してる時も。」
虹「電柱に怒られてる時も。」
虹「ずっと見てた。」
ロン毛「怖っ!」
虹「ひどい!」
ロン毛「ごめんごめん!」
虹「もう!」
虹「せっかく会えたのに!」
ロン毛「会いたかったのか?」
虹「……うん。」
虹「ずっと。」
ロン毛「なんで?」
虹「わかんない。」
虹「でも、会いたかった。」
風が優しく吹き抜ける。
風「よかったな。」
ロン毛「お前、知ってたのか?」
風「秘密。」
ロン毛「またそれか。」
風「春だからな。」
ロン毛「意味わからん。」
虹「春っていいね!」
ロン毛「そうだな。」
虹「私、春好き!」
ロン毛「俺も嫌いじゃない。」
虹「えへへ。」
夕日に照らされた七色の光。
春の匂い。
雨上がりの空。
そして。
どこか懐かしいような、不思議な出会い。
この日。
失業してバイトをしながら音楽を続けるギタリスト・ロン毛と。
ずっと彼を見守ってきた、虹は。
初めて言葉を交わした。
そしてまだ二人は知らない。
笑って。
喧嘩して。
泣いて。
そしていつか。
別れの日が来ることを。
春の風は、ただ優しく吹いていた。




