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虹とロン毛  作者: かいちょ
第1章 自然との日常
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第39話 春待ちの風

二月も終わりに近づいていた。


 冷たい風の中にも、どこか柔らかさが混じり始めている。


 春は、もうすぐそこまで来ていた。

 この日、バイトが休みだったロン毛は、いつものようにギターを背負って川沿いを散歩していた。


 ロン毛「今日は暖かいな。」


 風「そうか?」


 ロン毛「おう。」


 風「まだ寒いぞ。」


 ロン毛「お前が吹いてるからな。」


 風「悪かったな!」


 ロン毛「ははは。」


 風はいつものように元気だった。


 冬の間、何度も話し相手になってくれた。


 春になれば雪は消える。


 しかし風は季節が変わっても変わらず吹き続ける。


 ロン毛「そういや、もう三月か。」


 風「もうすぐだ。」


 ロン毛「何が?」


 風「新しい季節だ。」


 ロン毛「春か。」


 風「春だけじゃない。」


 ロン毛「またそれか。」


 風「みんな言ってるだろ?」


 ロン毛「雪も、電柱も、知らないじいさんも。」


 風「そういうことだ。」


 ロン毛「なんなんだよ。」


 風「秘密だ。」


 ロン毛「秘密ばっかりだな。」


 風「その方が面白い。」


 ロン毛「性格悪いな。」


 風「風だからな!」


 ロン毛「意味わからん。」


 川の水面がきらきらと光る。

 遠くでは子供たちが遊んでいた。

 平和な午後だった。


 ロン毛は近くのベンチに腰掛け、ギターを取り出す。

 ロン毛「少し弾くか。」


 風「おっ、ライブか?」


 ロン毛「客一人だけどな。」


 風「私は無料で聴けるから助かる!」


 ロン毛「金取れるのか、お前から。」


 風「払わん!」


 ロン毛「だろうな。」


 ロン毛は静かに「曇」のメロディーを奏で始めた。

 冬の終わり。

 春を待つ歌。

 風は気持ちよさそうに吹いている。

 曲が終わる。


 風「いい曲だ。」


 ロン毛「ありがとよ。」


 風「最近、前より音が優しい。」


 ロン毛「そうか?」


 風「うん。」


 その時だった。


 風が突然静かになった。


 風「……ん?」


 ロン毛「どうした?」


 風「空。」


 ロン毛「空?」


 風「見ろ。」


 ロン毛は顔を上げた。


 夕暮れの空。


 雲の隙間。


 そこに。


 一瞬だけ。


 見たことのない七色の光が浮かんでいた。


 ロン毛「なんだ、あれ。」


 風「……。」


 ロン毛「虹?」


 しかし、次の瞬間。


 七色の光はふっと消えてしまった。


 ロン毛「消えた。」


 風「……。」


 ロン毛「見間違いか?」


 風「いや。」


 風「今のは確かにいた。」


 ロン毛「いた?」


 風「なんでもない。」


 ロン毛「なんだよ。」


 風「もうすぐ新しい季節だ。」


 風「お前の知らない春が来る。」


 ロン毛「意味深だな。」


 風「楽しみにしてろ。」


 ロン毛「だから、期待しすぎると怖いんだって。」


 風「案外、向こうも待ってるかもしれないぞ。」


 ロン毛「誰が?」


 風「ふふふ。」


 ロン毛「だから何なんだよ。」


 風は答えなかった。


 ただ、優しく吹き抜ける。


 夕暮れの空。


 ロン毛はもう一度見上げた。


 そこには、いつもの冬空しかなかった。


 けれど。

 どこかで誰かが。

 長い間待ち続けていた。

 春の雨上がり。

 その日が来るのを。

 そして、まだ知らない。


 ロン毛の運命を変える七色の出会いが、もうすぐそこまで来ていることを。

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