第37話 こたつの平和
一月の終わり。
外では雪が静かに降っていた。
しかし、かいちょの家の居間は、こたつと鍋のおかげで別世界のように暖かかった。
ぐつぐつと煮える寄せ鍋。
テレビから流れるバラエティ番組。
そして、こたつから出る気配のない三人。
かいちょ「いやぁ、冬は鍋に限るな!」
釜内「わかる! こたつも最高だ!」
ロン毛「一回入ると出られなくなるんだよな。」
かいちょ「もう住めるよな!」
釜内「住民票移したい!」
ロン毛「やめとけ。」
三人は笑った。
暇さえあれば集まって、くだらない話をして、笑って。
そんな時間が、なんだかんだ好きだった。
かいちょ「そういやロン毛、バイトどうよ?」
ロン毛「ぼちぼち。」
釜内「ギターは?」
ロン毛「ぼちぼち。」
かいちょ「彼女は?」
ロン毛「ぼちぼち。」
釜内「全部ぼちぼちじゃねぇか!」
ロン毛「人生そんなもんだろ。」
かいちょ「達観してんなぁ。」
鍋も半分ほど空になった頃。
ロン毛は立ち上がった。
ロン毛「飲み物取ってくるかいちょ、冷蔵庫開けるぞ。」
かいちょ「コーラ!」
釜内「お茶!」
ロン毛「はいはい。」
玄関を開けると、冷たい夜風が頬を撫でた。
家の前には一本の電柱が立っている。
電柱「おう。」
ロン毛「こんばんは。」
電柱「鍋か。」
ロン毛「鍋だ。」
電柱「いいな。」
ロン毛「食うか?」
電柱「遠慮しとく。」
ロン毛「そうか。」
しばらく沈黙が流れる。
珍しく、電柱の声に元気がなかった。
電柱「最近、空が騒がしい。」
ロン毛「空?」
電柱「ああ。」
電柱「風も落ち着かん。」
電柱「雲もそわそわしている。」
電柱「雪も何か知っているようだった。」
ロン毛「春が近いからじゃないか?」
電柱「そんな感じではない。」
ロン毛「考えすぎだって。」
電柱「お前は呑気だな。」
ロン毛「悪かったな。」
電柱「悪いとは言っていない。」
電柱「だが、何かが近づいている。」
ロン毛「何かって?」
電柱「分からん。」
電柱「長く立っているが、こんな空気は久しぶりだ。」
ロン毛「ふーん。」
ロン毛は特に気にしなかった。
釜内「肉なくなるぞ!」
ロン毛「今行く!」
ロン毛が家に戻ろうとすると、電柱が小さく呟いた。
電柱「春は、もうすぐだ。」
ロン毛「ん?」
電柱「いや、独り言だ。」
ロン毛「電柱の独り言ってなんだよ。」
電柱「気にするな。」
ロン毛は笑いながら家の中へ戻った。
暖房の効いた居間。
こたつの温もり。
そして、くだらない会話。
釜内「ロン毛、遅い!」
かいちょ「コーラ持ってきたか?」
ロン毛「ちゃんと持ってきたぞ。」
釜内「よし!」
かいちょ「乾杯!」
三人はコップを合わせた。
かいちょ「いやぁ、平和だな!」
釜内「平和だな!」
ロン毛「平和だな。」
笑い声が部屋に響く。
窓の外では雪が静かに降り続いていた。
そして空のどこかで。
まだ誰も知らない七色の光が、春を待ちながら静かに眠っていた。




