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虹とロン毛  作者: かいちょ
第1章 自然との日常
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第36話 雪道とロン毛

 吐く息が白くなる。


 一月の終わり。冬の夜は静かだった。


 バイトを終えたロン毛は、コンビニの袋を片手にいつもの帰り道を歩いていた。


 ロン毛「いやぁ、今日も疲れたなぁ」


 誰に言うでもなく呟く。


 すると、足元から小さな声が聞こえた。


 雪「お疲れさん」


 雪「今日もよく頑張ったな」


 ロン毛「おう、雪か」


 ロン毛「なんか今年は寒いな」


 雪「冬だからな」


 ロン毛「そりゃそうか」


 ロン毛は思わず笑った。


 自然と話せるようになってから、こういう会話もすっかり日常になっていた。


 風と話す。

 電柱に説教される。

 夏の朝に励まされる。

 森に愚痴を聞いてもらう。


 最初は驚いたものだが、今では話し相手が増えたようで悪くないと思っていた。


 雪「今日は楽しかったか?」


 ロン毛「まあ、ぼちぼちだな」


 ロン毛「バイトのおばちゃんに余った肉まんもらったし」


 雪「それはよかった」


 ロン毛「お前、ほんと優しいな」


 雪「そうか?」


 雪「溶ける前に褒めても何も出ないぞ」


 ロン毛「そりゃ残念だ」


 二人は笑った。


 いや、一人と雪が笑った。


 街灯に照らされた雪道を、ロン毛はゆっくり歩く。


 空には星が見えていた。




 ロン毛「そういや雪」


 雪「ん?」


 ロン毛「春って好きか?」


 雪「好きだな」


 雪「私たちは消えてしまうが、その代わり花が咲く」


 雪「季節が巡るというのは悪くない」


 ロン毛「消えるの、嫌じゃないのか?」


 雪「嫌だ」


 雪「だが、ずっと降り続けていたら困るだろ?」


 ロン毛「それもそうか」


 雪「だから春に任せる」


 ロン毛「なんか哲学者みたいだな、お前」


 雪「年季が違う」


 雪「毎年降ってるからな」


 ロン毛「なるほど」


 しばらく沈黙が続く。

 遠くから電車の音が聞こえる。

 そして雪は、ぽつりと呟いた。


 雪「春になれば面白い出会いがあるぞ」


 ロン毛「ん?」


 ロン毛「なんだそれ」


 雪「秘密だ」


 ロン毛「またそういうこと言う」


 ロン毛「教えろよ」


 雪「教えない」


 ロン毛「ケチ」


 雪「雪だからな」


 ロン毛「意味わかんねぇよ」


 二人はまた笑った。

 すると、ひゅうっと冷たい風が吹く。


 風「おーい! 寒いから早く帰れよー!」


 ロン毛「お、風か」


 風「風邪ひくぞ!」


 ロン毛「ありがとさん」


 ロン毛「帰って肉まんでも食うか」


 雪「そうしろ」


 雪「ロン毛」


 ロン毛「なんだ?」


 雪「お前は案外、一人じゃない」


 ロン毛「知ってるよ」


 ロン毛「お前らがいるからな」


 ロン毛は少し照れくさそうに笑った。


 電柱も。

 夏の朝も。

 風も。

 森も。


 みんな変わった連中だが、大切な友達だった。


 家の前に着く頃には、雪がちらちらと降り始めていた。


 ロン毛「また降ってきたな」


 雪「最後のひと頑張りだ」


 雪「春が近いからな」


 ロン毛「そっか」


 ロン毛は空を見上げた。


 白い雪が静かに舞っている。


 ロン毛「春かぁ」


 ロン毛「何かいいことあるといいな」


 雪は、少しだけ嬉しそうに答えた。


 雪「あるさ」


 雪「きっと、お前の想像よりずっと綺麗な出会いがな」


 ロン毛「綺麗な出会い?」


 雪「楽しみにしておけ」


 ロン毛「まあ、期待しない程度に待っとくよ」


 雪「それくらいがちょうどいい」


 静かな夜。


 雪は降り続ける。


 春を待ちながら。


 そしてロン毛もまた、まだ見ぬ誰かとの出会いを知らぬまま、家の灯りの中へと消えていった。


 この時、彼はまだ知らない。


 春の雨上がり。


 空にかかる七色の光が、自分の運命を大きく変えることを。

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