特別話 君の笑顔
優「こんばんは。」
女の子「優さん! いらっしゃい!」
優はメゾンモーヴに通い始めて三年。
仕事帰りにふらっと寄っては、決まって彼女の席につく。
誕生日にはシャンパン。
周年イベントには高額ボトル。
女の子「優さん、本当にありがとうございます!」
優「応援したいだけだから。」
女の子「優さん優しいなぁ。」
優は笑っていた。
だが、本当は。
応援だけじゃなかった。
好きだった。
本気だった。
ある日。
優「今度さ、仕事終わった後、ご飯でもどう?」
女の子「ごめんなさい。アフターは行かないことにしてるんです。」
優「そうか。」
女の子「本当にごめんなさい。」
優「いや、気にしないで。」
それでも優は店に通った。
次の週も。
その次の週も。
イベントの日にはまた高額ボトルを下ろした。
女の子「えっ、これ入れてくれるんですか!?」
優「たまにはね。」
女の子「優さん、ありがとうございます!」
その笑顔が見られるだけで幸せだった。
そう思っていた。
でも。
優「今度の休み、映画とか。」
女の子「ごめんなさい。」
優「昼ご飯だけでも?」
女の子「ごめんなさい。」
優「そうか。」
断られるたびに、優の中に小さな寂しさが積もっていった。
そして年末。変な3人組が盛り上がっている。
ロン毛の変なやつがいる。あと誰か吐いた。
店も少し落ち着き、二人きりで話す時間ができた。
優「聞いていい?」
女の子「はい?」
優「俺、嫌われてる?」
女の子「え?」
優「いつも断られるから。」
女の子「嫌いじゃないですよ!」
優「じゃあなんで。」
女の子「私は、お店の外で会うつもりがないんです。」
優「誰とも?」
女の子「誰ともです。」
優「そっか。」
女の子「優さんには本当に感謝してます。」
優「うん。」
女の子「いっぱい応援してくれて、いっぱい笑わせてくれて。」
優「うん。」
女の子「でも、恋愛とは違うんです。」
優「…。」
女の子「変に期待させてたら、ごめんなさい。」
優「謝らなくていいよ。」
女の子「え?」
優「俺が勝手に期待してただけだから。」
女の子「そんなこと…。」
優「でもさ。」
女の子「はい。」
優「『こんばんは!』って笑って迎えてくれるの、嬉しかった。」
女の子「それは本当ですよ。」
優「え?」
女の子「優さんが来ると安心するし、いっぱい笑わせてくれるし。」
優「…。」
女の子「嫌だったら、こんなに話しません。」
優「ありがとう。」
女の子「でも。」
優「うん。」
女の子「それと恋愛は別なんです。」
優は少し黙った。
そして、笑った。
優「そっか。」
女の子「優さん…。」
優「俺さ、勘違いしてたのかもな。」
女の子「…。」
優「ボトル入れたり、応援したり、そういうのを続けてたら、いつか振り向いてくれるんじゃないかって。」
女の子「優さん。」
優「でも違うんだな。」
女の子「ごめんなさい。」
優「謝ることじゃない。」
女の子「え?」
優「好きになったのは俺の自由。」
女の子「…。」
優「好きになってもらえるかどうかは、君の自由だ。」
女の子「優さん…。」
優「今年はありがとう。」
女の子「こちらこそです。」
優「来年は、ボトルより自分に金使うよ。」
女の子「いいと思います!」
優「旅行でもしようかな。」
女の子「お土産待ってます!」
優「ちゃっかりしてるな。」
女の子「えへへ。」
優「良いお年を。」
女の子「良いお年を!」
優は店を出た。
外は冷たい風が吹いていた。
失恋だったのかもしれない。
勘違いだったのかもしれない。
それでも。
最後に彼女の笑顔を見て、
「好きになれてよかったな。」
そう思えた。
そして優は、少しだけ前を向いて歩き始めた。
数日後。
優は現場の休憩中、ふと空を見上げると、雪雲の切れ間から夕陽が差し込んでいた。
優「虹は出てないか。」
そう呟いて、少し笑う。
メゾンモーヴで過ごした時間も、あの子への想いも、掴めなかった虹みたいなものだった。
それでも、見上げた空が綺麗だったことに変わりはない。
優「またいつか、虹が出る日もあるか。」
そう言うと、優は作業着の袖をまくり、冷たい風の中、次の現場へ向かって行った。




