第3話 電柱と夏の朝 セミと少年
「暑い。」
ロン毛は河川敷を歩きながら言った。
「夏だからね。」
夏の朝が笑う。
ロン毛「お前は楽しそうだな。」
夏の朝「私は夏の朝だから。」
意味は分からないが、本人は満足そうだった。
少し歩くと電柱が話しかけてくる。
電柱「今日は静かだな。」
ロン毛「そうか?」
電柱「セミがいない。」
言われてみればそうだった。
ここ3日ほど電柱にくっついて鳴きまくってたセミがいない。
セミはいつも「みろよ俺の魅惑的なボディーを♡まじかっけぇっしょ☆」と元気すぎるやつだった。
耳が痛くなるほど鳴いているはずなのに。
不自然なくらい静かだった。
しばらく歩くと、公園の木の下に小学生くらいの少年が座っていた。
泣いている。
足元には虫かご。
中には一匹のセミがいた。
ロン毛が近づく。
「どうした?」
少年は涙をぬぐった。
「セミが鳴かないんだ。」
虫かごを見る。
確かにあのセミだった。
するとロン毛の耳に小さな声で
「帰りたいよーん♡やっぱあそこで鳴きたい☆」
セミだった。
「帰りたいって言ってる。」
ロン毛が言う。
少年は首をかしげた。
「え?」
ロン毛「いや、独り言。」
説明しても信じてもらえない。
セミは弱々しく続ける。
「空を見たい♡」
「はよあそこで鳴いてメスつかまえたい☆」
ロン毛は黙った。
夏の朝がそっと言う。
「短いんだよ。」
ロン毛「何が?」
夏の朝「セミの時間。」
風が吹く。
木の葉が揺れる。
「だから一生懸命鳴くんだ。」
夏の朝の声は優しかった。
ロン毛は少年の隣にしゃがむ。
ロン毛「そのセミさ。」
少年「うん。」
ロン毛「外に出してやらないか。」
少年は少し迷った。
少年「せっかく捕まえたのに。」
ロン毛「そうだな。」
ロン毛は空を見る。
「でも、あいつにもやりたいことがあるみたいだ。」
少年はしばらく考えた。
そして虫かごを開けた。
セミが飛び立つ。
青空へ。
真っすぐ。
まるで喜んでいるようだった。
その瞬間。
ミーーーン!!(ひゃっほおおおおおおおおお)
大きな鳴き声が響いた。
周囲の木々から次々と返事が聞こえる。
ミーン。(ソメ-ン♡)
ミーン。(ラメーン♡)
ミーーーン。(ザルソヴァ♡)
少年が笑う。
「鳴いた!」
「鳴いたな。」
ロン毛も笑った。
少し前の自分ならこんな少年と関わらなかっただろう。
夏の朝が空から言った。
「優しくなったんだよ。」
ロン毛「そうかな。」
夏の朝「うん。」
短い命でも自由に生きる、それが大事だと改めて思った。




