第2話 夏の朝
夏のある日早起きが得意でもない俺が珍しく早起きをした。
適当につけたテレビは朝の体操番組だった。
昨日の夜音楽番組に好きなアーティストの「森谷辰哉」が出てたんだった。それを見て寝たんだった。
そして俺は河川敷に散歩しにいった。
河川敷に座るとそこら中の草が「変な男来たマジ草www」とか言ってる。
そんなこと気にしないでギターケースを隣に置き、ぼんやり空を見上げる。
「おはよう。」
優しい声がした。
ロン毛「誰?」
「私。」
空だった。
正確には朝日だった。
「私は夏の朝。」
ロン毛「夏の朝?」
夏の朝「そう。」
ロン毛「自然界、キャラ濃くない?」
夏の朝「ありがとう。」
ロン毛「褒めてない。」
夏の朝は笑った。
不思議と安心する声だった。
夏の朝「ギター弾かないの?」
ロン毛「今は気分じゃない。」
夏の朝「でも好きなんでしょう?」
ロン毛は黙った。
好きに決まってる。
誰よりも。
だから苦しかった。
夏の朝は静かに言う。
「好きなものは簡単には消えないしやり続けなきゃダメだよ。」
ふと過去の恋を思い出した。消えない過去。
悔やんでも悔やみきれない。
ギター始めた理由ってなんだっけ。
ロン毛が高校2年生の頃。
クラスに気になっている子がいた。
勉強も運動も普通だったロン毛は、どうやって振り向いてもらえばいいのか分からなかった。
そんなある日、偶然動画サイトで見つけたのが人気アーティストの森谷辰哉だった。
ステージの上でギターをかき鳴らしながら歌う姿。
大勢の観客を魅了する姿。
何より楽しそうに音楽をやっている姿に衝撃を受けた。
「こんな人になれたらかっこいいな。」
それが最初だった。
そして単純な理由もあった。
気になっている子の好きなアーティストだったのだ。
次の日、貯金箱をひっくり返し、足りない分は親に頼み込んで安い中古ギターを買った。
指は痛いし、コードは押さえられないし、全然上手くならない。
1曲森谷辰哉の曲が引けるようになった。
気になってる子との会話の話題に使えると思った。
しかし二学期の終わり。
その子は突然転校することになった。
父親の仕事の都合だった。
最後の日。お別れ会でギターを披露した。
その子に泣きながらこう言われた。
「好きなことやり続けてね。」
ロン毛は何も言えなかった。
教室の窓から校門を出ていく姿をみた。
その背中を見た瞬間涙が出てきた。
その恋は終わった。
けれど、ギターだけは残った。
もしあの子が転校しなければ、ギターを続けていなかったかもしれない。
もし森谷辰哉に出会わなければ、ギターを手に取らなかったかもしれない。
だからロン毛は今でも思う。
人生で一番最初の観客は、名前も呼べなかったあの子だったのかもしれない、と。
夏の朝 「何ぼーっとしてるの。」
ロン毛「いや、ただ。」
ロン毛の目に小粒の涙が溜まる。
夏の朝「男の子なんだから泣かないの。」
ロン毛はもっと思い出した、あの子は7月生まれだったこと
ポメラニアンみたいに元気でずーっとにこにこしてたこと
ロン毛「過去なんか蹴り飛ばすよ。俺たちは思い出のために生きてるんじゃない。明日を作るために生きてるんだ。」
夏の朝「かっこいいじゃん。私もなにか作れたらいーな。」
ロン毛「暑さだけは作んなよ、俺夏嫌いだから。」
そう言った瞬間少し気温が上がったように感じた。




