第16話 ロン毛 バイトをする
ロン毛は、何となく見つけた水族館のアルバイト募集の紙を見つめていた。
募集内容。
釣り好き歓迎!! 短時間〜◎ 生き物と触れ合えます。
くるまえび飼育補助スタッフ募集(髪型自由)
時間 16:00〜21:00
シフト 週2・3〜OK、週4〜OK
給与 1,100〜
勤務地 百輪かわとうみ水族館 (JR 百輪駅 徒歩5分)
ロン毛 「くるまえび限定かよ。」
半分冗談のつもりで応募した。
そして面接の日。
館長 「志望動機は?」
ロン毛 「……なんとなくです。」
館長 「正直だね。」
ロン毛 「釣りは好きです。」
館長 「くるまえびは?」
ロン毛 「好きです。」
館長 「食べる方?」
ロン毛 「いや、生きてる方です。
館長は少し笑った。
数日後。
一通のメールが届いた。
ロン毛 「え?」
『採用通知』
ロン毛 「受かった……。」
初出勤の日。
館長 「今日からよろしく。」
ロン毛 「よろしくお願いします。」
館長 「担当はくるまえび。」
ロン毛 は覚悟はしていたが……やっぱりという気持ちが強かった。
館長 「くるまえびを甘く見ちゃいけない。水温、塩分濃度、エサ、脱皮。全部大事だからね。」
ロン毛 「覚えること多いな……。」
最初の一週間は失敗ばかりだった。
エサの量を間違える。
掃除の時間を忘れる。
水槽の記録を書き忘れる。
館長 「焦らなくていい。」
館長 「生き物は人間の都合では動かないから。」
ロン毛 「すみません。」
館長 「謝るより観察。」
ロン毛 「観察。」
少しずつ仕事に慣れてきた頃。
ロン毛は、くるまえびたちの違いに気付き始めた。
砂に潜るのが好きなやつ。
すぐエサを見つけるやつ。
他の仲間の後ろをついて歩くやつ。
ロン毛 「同じように見えて全然違うんだな。」
閉館後。
照明が落ちた静かな水族館。
ロン毛は一匹のくるまえびを眺めていた。
すると、そのくるまえびがひげを揺らしながら近寄ってきた。
くるまえび 「よう、飼育係。」
ロン毛 「しゃべるんだやっぱ」
くるまえび 「お前やっぱしゃべれるんだな」
ロン毛 「うん。なんでかは知らん」
くるまえび 「どうせなんかきっかけはあるんだろ。」
ロン毛 「それはそう。」
くるまえび 「最近、いい顔になったな。」
ロン毛 「そうか?」
くるまえび 「最初は余裕なかった。」
ロン毛 「まあな。」
くるまえび 「でも、ちゃんと毎日来てくれた。」
ロン毛 「仕事だからな。」
くるまえび 「仕事だけじゃ続かん。」
ロン毛 「生意気だな。」
くるまえび 「俺は年長者や。」
ロン毛 「何歳だよ。」
くるまえび 「知らん。」
二人は笑った。
ロン毛は一匹のくるまえびを眺めていた。
そのしっぽは光の当たり方で、赤や青、緑のような色が混ざって見える。
まるで小さな虹のようだった。
くるまえび 「派手じゃなくてもいい。」
くるまえび 「誰かと比べなくてもいい。」
くるまえび 「自分の色を大事にすればいい。」
ロン毛は静かにうなずいた。
そして、水槽に映る自分の姿を見つめながら、小さくつぶやいた。
「くるまえびのしっぽのように美しくありたい。」




