第15話 ロン毛とギター
ギター 「さいきんおれの手入れ全然しないな。」
ロン毛 「演奏する気力があの日から無くなっちゃって。」
ギター 「あの日奏でた曲まじでよかったよな。その後雨でびしゃびしゃになったけどな。」
ギターは湿気というか水に触れると結構やばいのだが何とか問題ないようだ。
寿命は多少は縮んだだろうが高二の時から演奏しているギターだ、捨てるわけにも修理するわけにも行かない。
ギター 「無理に俺の事考えなくてもいいんやで。」
ロン毛はその言葉を聞いた瞬間、手が出そうになった。
ロン毛 「お前に何がわかる。 お前は大事な相棒なんだぞ。」
ギター 「お前俺に囚われてるんじゃないか、疲れたら音楽から離れてもいいんやで。」
ロン毛は肩の荷がおりた気がした。
そう思ったらいつの間にか眠りに入っていた。
こんな夢を見た
気が付くと、ロン毛は雨の降る公園に立っていた。
見覚えがある。
ロン毛 「またここか……。」
雨は降っているのに、不思議と冷たくない。
ふと前を見ると、ベンチに誰かが座っていた。
近づいてみると、それは高校二年生の頃の自分だった。
まだ新品に近いギターを抱えている。
高二のロン毛 「遅かったな。」
ロン毛 「なんだよこれ。」
高二のロン毛 「夢だろ。」
ロン毛 「便利な言葉だな。」
高二のロン毛は笑いながらギターを鳴らした。
まだ少し下手な音だった。
高二のロン毛 「覚えてるか?」
ロン毛 「何を。」
高二のロン毛 「最初に弾けた曲。」
ロン毛 「忘れるわけないだろ。」
高二のロン毛 「じゃあ弾いてみろよ。」
ロン毛はギターを受け取った。
しかし指が動かない。
コードは覚えている。
弾き方も覚えている。
なのに音が出せない。
高二のロン毛 「なんで弾かないんだ?」
ロン毛 「……怖いんだよ。」
高二のロン毛 「何が。」
ロン毛 「また思い出す気がして。」
雨音だけが響いた。
高二のロン毛はしばらく黙っていた。
そして静かに言った。
高二のロン毛 「俺はそんなこと考えてなかったぞ。」
ロン毛 「知ってる。」
高二のロン毛 「ただ弾きたかった。」
ロン毛 「知ってるよ。」
高二のロン毛 「ならそれでいいじゃん。」
ロン毛は返す言葉が見つからなかった。
その時、どこからか聞き慣れた声がした。
ギター 「俺もそう思う。」
振り向くと、いつものギターが木にもたれかかっていた。
ギター 「お前、音楽を背負いすぎや。」
ロン毛 「……。」
ギター 「俺はただのギターや。」
ロン毛 「違う。」
ギター 「違わん。」
ギターは少し笑ったような気がした。
ギター 「俺は弾かれるためにある。」
ロン毛 「……。」
ギター 「悲しい時に弾いてもええ。」
ギター 「楽しい時に弾いてもええ。」
ギター 「何も考えたくない時に弾いてもええ。」
ギター 「でもな。」
雨が少しずつ弱くなっていく。
ギター 「弾かなかったからって、お前の価値が無くなるわけやない。」
ロン毛は下を向いた。
気付けば、ずっと自分を責めていたのかもしれない。
高二のロン毛 「俺なら気にせず遊んでるな。」
ロン毛 「お前はそうだろうな。」
高二のロン毛 「だって好きだから始めたんだし。」
いつの間にか雨は止んでいた。
雲の隙間から日が差し込む。
景色が白くぼやけ始める。
ギター 「また弾きたくなったら弾くんだな。」
高二のロン毛 「その時はちゃんと練習しろよ。」
ロン毛 「うるさい。」
二人の笑い声が遠ざかっていく。
ロン毛は目を覚ました。
朝だった。
静かな部屋の中。
隅には、あのギターが立てかけてある。
ロン毛はしばらく眺めた後、ゆっくりとギターを手に取った。
ロン毛 「……1曲だけな。」
ギター「やったぁ。
」
少し錆びた弦が、小さく音を鳴らした。




