第10話「雲とロン毛」
昼下がり。
河川敷。
青い空。
白い雲。
ロン毛は寝転んでいた。
ギターケースを枕にして。
何もしたくない日だった。
空を見ていた。
ただぼーっと。
すると。
雲「見てる。」
ロン毛「見てる。」
雲「何考えてる。」
ロン毛「何も。」
雲「嘘。」
ロン毛「ばれた?」
雲「顔に書いてある。」
ロン毛「便利だな。」
雲「風に聞いた。」
ロン毛「情報共有するな。」
雲「てへ。」
しばらく沈黙。
鳥が飛ぶ。
遠くで電車の音がする。
ロン毛「最近。」
雲「うん。」
ロン毛「なんか焦る。」
雲「うん。」
ロン毛「周りが進んでる気がする。」
雲「うん。」
ロン毛「自分だけ止まってる。」
雲「止まってない。」
ロン毛「そうか?」
雲「うん。」
ロン毛「なんで。」
雲「見てるから。」
ロン毛「またそれか。」
雲「毎日見てる。」
ロン毛「監視社会だ。」
雲「空社会。」
ロン毛は少し笑った。
ロン毛「みんなすごいんだよ。」
雲「うん。」
ロン毛「結婚したり。」
雲「うん。」
ロン毛「バイトしてたり。」
雲「うん。」
ロン毛「夢叶えたり。」
雲「うん。」
ロン毛「俺、昼寝してる。」
雲「いいじゃん。」
ロン毛「よくない。」
雲「なんで。」
ロン毛「置いていかれる。」
雲「誰に。」
ロン毛「世間。」
雲「世間って誰。」
ロン毛「知らん。」
雲「知らない人に急かされてるの?」
ロン毛「そうかもしれん。」
雲「変なの。」
ロン毛「変だな。」
風が吹いた。
草「昼寝しそうな大人いて草www」
ロン毛「またお前か。」
草「元気?」
ロン毛「ぼちぼち。」
草「それで十分。」
ロン毛「適当だな。」
草「草だから。」
空を見上げる。
雲がゆっくり流れる。
ロン毛「お前。」
雲「うん。」
ロン毛「どこ行くんだ。」
雲「知らない。」
ロン毛「知らんのかい。」
雲「風まかせ。」
ロン毛「不安じゃない?」
雲「不安。」
ロン毛「あるんだ。」
雲「ある。」
ロン毛「でも平気なのか。」
雲「うん。」
ロン毛「なんで。」
雲「止まっても。」
ロン毛「うん。」
雲「流れても。」
ロン毛「うん。」
雲「雲だから。」
ロン毛「深いようで浅い。」
雲「ふわふわだから。」
ロン毛「確かに。」
ロン毛「なあ。」
雲「うん。」
ロン毛「人生って。」
雲「うん。」
ロン毛「正解あると思う?」
雲「ない。」
ロン毛「即答だな。」
雲「空に道はない。」
ロン毛「うん。」
雲「なのに人は道を作る。」
ロン毛「うん。」
雲「迷っても。」
ロン毛「うん。」
雲「遠回りしても。」
ロン毛「よく分からん。」
雲「私も。」
ロン毛「おい。」
雲「でも。」
ロン毛「うん。」
雲「分からないまま生きるのも、悪くない。」
ロン毛「そうか。」
雲「うん。」
遠くで子供の声。
犬の鳴き声。
飛行機雲。
ロン毛「今日。」
雲「うん。」
ロン毛「何もしなかった。」
雲「した。」
ロン毛「何を。」
雲「空見た。」
ロン毛「それだけ。」
雲「大事。」
ロン毛「そうか。」
雲「疲れてる時は。」
ロン毛「うん。」
雲「頑張るより。」
ロン毛「うん。」
雲「空を見る日があってもいい。」
ロン毛「贅沢だな。」
雲「空は無料。」
ロン毛「助かる。」
雲「サブスクなし。」
ロン毛「最高だな。」
二人は笑った。
夕方。
雲が赤く染まる。
ロン毛は起き上がった。
ギターケースを背負う。
ロン毛「帰るか。」
雲「またね。」
ロン毛「また会える?」
雲「毎日いる。」
ロン毛「同じ雲じゃない。」
雲「ロン毛も昨日と同じじゃない。」
ロン毛「そうか。」
雲「少しずつ変わる。」
ロン毛「それでいいか。」
雲「それがいい。」
ロン毛「ありがとう。」
雲「どういたしまして。」
空を見上げる。
さっきまでいた雲は、
もう違う形になっていた。
でも。
確かにそこにいた。
空を見上げる余裕があるなら、
まだ大丈夫。
雲は形を変えても、
空からいなくなるわけじゃない。
人もきっと同じだ。
大人になっても、何者かになれなくて焦る日がある。
でも。
空を見て、
ぼーっとできる日は、
案外悪くない。
そんなもんだ。




