第95話 七色の空
静寂に包まれていたイデア界に、久しぶりに優しい風が吹いた。
枯れかけていた花々は再び色を取り戻し、止まりかけていた川の流れも穏やかさを取り戻していく。
空には、淡い七色の光が広がっていた。
世界が少しずつ元の姿を取り戻している。
それと同時に、調和を司る神アシスにも変化が起きていた。
消えかけていた身体に少しずつ力が戻り、かすれていた声にも温かさが戻り始める。
ナムネは信じられない顔でアシスを見つめていた。
ナムネ「アシス……立てるの?」
アシスは苦笑しながらゆっくり立ち上がる。
アシス「まだ少しふらつくけど。」
アシス「どうやら、しぶといみたいだ。」
その言葉に、周りの風たちが歓声を上げた。
風「アシスだ!」
木々「おかえり!」
川「待ってたよ!」
ナムネは思わず涙を流した。
ナムネ「もう……。」
ナムネ「心配したんだから。」
アシスは優しく笑う。
アシス「ごめん。」
アシス「でも、まだ終わりじゃなかったみたいだ。」
空を見上げる。
そこには七色の光。
遠くで虹が穏やかに笑っていた。
以前のような寂しそうな笑顔ではない。
安心したような、優しい笑顔だった。
虹「よかった。みんな元気になってる。」
アシスはその姿を見つめながら、小さく呟く。
アシス「世界は救われた。」
アシス「だから今度は、お前たちが笑ってくれるよう、おれも頑張るよ。」
虹は嬉しそうに頷いた。
虹「うん!私も頑張る!」
ナムネは二人を見て微笑む。
ナムネ「みんな、本当に頑張ったね。」
風が笑い。花も揺れる。鳥たちも歌い始める。
そしてアシスは、ゆっくりと歩き始めた。
まだ完全ではない。
時折立ち止まり、息を整えなければならない。
それでも、その足取りは確かだった。
ナムネが隣を歩く。
ナムネ「無理しちゃ駄目だからね。」
アシス「分かってる。」
アシス「今度はゆっくり行くさ。」
七色の空の下。
調和の神と記憶の神は並んで歩く。
急ぐ必要はない。
失ったものを悲しむのではなく。
守れたものを喜びながら。
その先で。
遠くの空には、虹が嬉しそうに笑っていた。
イデア界に、ようやく穏やかな季節が戻り始めていた。




