第94話 再び
朝日が立ちのぼる早朝。
王都の門前には、まだ冷たい朝霧が漂っていた。
衛兵たちの姿もまばらで、街全体が静寂に包まれている。
俺たち三人は、門の前に立っていた。
それぞれの視線は違う方向を向いていたが、胸にあるものは同じだった。
「……さぁ、行こうか。」
ルシルゼーレが低く呟き、ゆっくりと歩き出す。
その背中は細いのに、どこか決して折れない芯のようなものを感じた。
俺とアメルノアは無言でそれに続く。
門を抜ける瞬間、背後の王都が静かに遠ざかっていった。
「どこか、目をつけてる場所があるのか?」
俺が尋ねると、ルシルゼーレは迷いなく頷いた。
「うん。これから少し進んだところに廃村がある。
そこに、一軒だけ残った家があって……床下に魔法陣が描かれていた。」
「あれが転移魔法陣なら奴らが逃げた先かも知れない。」
「なるほどな……。」
俺は無意識に拳を握る。
静かな空気の中、靴音だけが草を踏む音と混ざって響いていた。
廃村に近づくにつれて、空気が変わっていった。
風も、どこか淀んでいた。
ふと――視界の端で、赤い光が瞬いた。
「……ん?」
村の方向から赤黒い輝きが断続的に漏れている。
炎とは違う、禍々しい光。
その瞬間、ルシルゼーレの表情が一変した。
「あれは……ッ!」
短く息を呑んだかと思うと、次の瞬間には駆け出していた。
「おい、ルシル!」
呼びかける間もなく、彼の背中は遠ざかっていく。
俺とアメルノアは顔を見合わせ、言葉もなくその後を追った。
冷たい風が頬を切る。
嫌な予感が、胸の奥でざわめいていた。
そして――廃村の入口に辿り着いた瞬間、視界が一変した。
崩れかけた家々の間で、赤黒い光が暴れるように迸っている。
その中心で、一人の男が剣を振るっていた。
「あいつ……」
ルシルゼーレが立ち止まり、震える声で呟く。
赤い刃が朝焼けの光を裂き、聖騎士たちの甲冑を斬り伏せていく。
男の動きは荒々しく、それでいて異様な精度を持っていた。
聖騎士団の紋章が光に照らされ、次々と倒れていく。
ルシルゼーレは、次に呼吸をした瞬間にはもう剣を握っていた。
視線はただ一点――男へ。
「ルシル、待て!」
俺が叫ぶ間もなく、彼は地を蹴り、一直線に駆け出していた。
その背中には迷いがない。
怒りと憎しみだけが、彼を前へと押し出しているのが分かった。
「くそっ……!」
俺とアメルノアも遅れて走り出す。
赤黒い光が弾け、聖騎士たちの断末魔が響く戦場へ――。
風が唸り、砂埃が巻き上がる。
魄霊剣を振るう男の背後に、ルシルゼーレが迫っていく。
その時、男が不気味なほど滑らかに動きを止めた。
まるで「待っていた」と言わんばかりに。
赤い刃が、ゆっくりとこちらへ向けられる。
「……今度こそ、殺してやるぜ」
その声は、底冷えするほど冷たかった。




