表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/117

第93話 説得

俺たちはアメルノアの家を出て、まだ薄暗い王都の通りを走った。

朝露が石畳に光り、小さな町灯がまだ灯っている。ルシルゼーレの影が門へ向かって細く伸びていた。


「ルシル!」


俺は早足で追いつき、そっとその肩に手を置いた。

ふらつく足取り。布の上からでも分かる痩せた肩骨。彼は一瞥して、静かに言った。


「止めても無駄だよ。僕の生きる意味は、その先にある。」


言葉に震えはない。覚悟だけが冷たく光っていた。


「止めないさ。」


その返答は意外だったのか、彼は歩みを止めて振り返る。朝日が彼の頬を赤く照らした。


「じゃあ、何の用だい?」


俺の横ではアメルノアが短く息を詰めた。彼女の表情は決意で硬かった。


「俺たちも協力する。三人なら、なんとかなるだろう。」


ルシルは小さく笑ったが、その笑みは冷たかった。


「必要ない。これは僕一人の復讐だ。君たちを危険な目には合わせられない。」


一人の復讐と言われればそうかもしれない、けど。


「確かに、お前一人の復讐かもな。

でも、俺達は仲間じゃないのかよ!

俺達を危険な目には合わせたくないと思ってるのと同じ様に、俺達もお前に危険な目にあって欲しくないんだよ!」


ルシルゼーレは大切な仲間だ。

危険な目にはあって欲しく無い。


ルシルゼーレは少し遠くを見ていた。


「仲間……か。そう、だったね。」


やがて視線をこちらに戻し、ゆっくりと口を開く。


「命の保証はできないよ。ラインハルト、君ですら――太刀打ちできないかもしれないくらい、相手は強いんだ。

 それでも……来てくれるかい?」


その問いは、静かに、だが確かな重さを伴って胸に落ちた。

ルシルゼーレの眼差しは真っ直ぐで、揺るぎがない。覚悟がそこにある。


(太刀打ちできないかもしれない――か)


胸を張って「任せろ!」とは言えない。

なぜなら俺はまだ龍の気を制御できていない。

足でまといにはならないとは思う、だが、自信を持って勝てるとは言えない。


(───それでも……)


「愚問だな。ここまで言って行かないわけ無いだろ!」


その言葉に隣のアメルノアが強く頷く。


「ありがとう……。君達の背中に少しだけ寄りかからせてもらうよ。」


そう言ったルシルゼーレは短く息を整えると、地図を取り出して指を指す。

その動きに、ためらいはなかった。


「よし、出発しよう。怪しい場所は──」


その言葉に、俺とアメルノアは同時に立ち上がった。


「待てよ、ルシルゼーレ。」


「駄目よ、ルシル。」


二人の声が重なる。

ルシルゼーレは眉をひそめ、わずかに顔をしかめた。


「なぜ止める?今行かないと手がかりが無くなってしまうかもしれないんだ。」


彼の声は冷静だったが、その裏には焦りが滲んでいた。


「だからって、その身体で行くつもりか?」


俺は一歩踏み出し、彼の前に立つ。


「傷は塞がったかもしれない。でも体力は回復してないだろ。

そんな満身創痍じゃ、倒せる敵も倒せないぞ。」


「……それでも、動かないと。」


「ルシル。」


アメルノアが静かに名を呼んだ。

その声は柔らかく、それでいて鋼のように揺るぎない。


「これだけは、私たちからのお願い。今日だけでいい。

 一日、休んで。お願い。」


ルシルゼーレの目がわずかに揺れた。

彼女の言葉に、何かを言い返そうとして――口を閉じる。

視線がゆっくりと床へ落ちた。


「……一日、か。」


「それだけでいい。」


アメルノアの声が、そっと続く。


「焦って倒れたら、仇を取ることもできなくなる。」


静かな沈黙。

ルシルゼーレは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。


「……分かった。今日だけは休むよ。

 でも、夜が明けたらすぐに出発する。」


俺は軽く頷いた。


「それでいい。今は体を戻せ。」


ルシルゼーレは小さく笑う。

その笑みはどこか悔しそうで、それでも少しだけ穏やかだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ