カラツ侵攻(もとい冒険)
王宮での正式な受任式により、
ヒメ様はついに“賢者の弟子”として認められた。
師匠はもちろん、勘違いと才覚で世界を動かすシオジである。
その直後、宰相から告げられたのは、大率──(現在の大宰府)の偵察任務。
陸路は封鎖され、海路は戦を禁じられた中、
二人(とその仲間達)はゆっくりと、しかし確実に新たな冒険へ歩み出す。
サーガの丘に建つ王宮の謁見の間に、荘厳な音楽が鳴り響いた。
「シオジ、次期賢者として、イチヒメノミコトの教導役を命ずる」
宰相が、読み上げるのは勅令である。受け賜わるしかない。
「は。この知識の全てをイチヒメノミコト様へ伝授いたします」
「いや、すべてで無くて良い…良いな、余計なことは、一切教えてはならんぞ」
こめかみを少し揉みながら、宰相が付け加えた。
「ところで君たちの冒険者パーティの名前は決まったのか。巷では勇者御一行様とか、賢者とゆかいな仲間と呼ばれているらしいけど」
吹き出すのを堪えながら、アニノミコトが冒険者パーティ一行に向けて、質問をする。
この兄、ヒメ様の助言を得ながらも切れ者として評価されている余裕なのか、なかなか気さくな振舞いをすることで知られている。しかも、美男子だ。父母が美男美女なのだから、当然なのだが…
冒険者一行は、互いに顔を見合わせて苦笑した。
王族相手でも、この兄には妙に気楽に話せてしまう。
「は!青の牙と名乗ろうかと」
リーダーであるジダンが威勢よく、答える。
「えっ!それで、決まってないわ。もっと、格好いいのが良い」
エベロアがサクラの意向を慮って代弁する。
「何じゃ、決まっていないのか。では、賢者とゆかいな仲間のままで良いか」
王が愉快そうに、口を挟む。
「「「「「それだけは、絶対に嫌です」」」」
なぜか、綺麗にハモッて反対をする。
「青の牙だ。牙は全てを砕く。青はあまんとの象徴だ」
珍しく説得力を発揮するジダン。
壇上で口を尖らしたヒメがつぶやく。
「金色の稲妻が良かったのに」
シオジは聞こえなかったふりをした。
(稲妻は俺のイメージじゃないしな……)
「ゴホン」
宰相が静かに前へ出る。
「さて、師弟となったそなたらに、早速だが任務を与える。」
謁見の間の海の民が姿勢を正す。
「大率──やまんとの残存軍管区が、北方の陸路を封鎖しておる。
カラツに陸路をもって交易出来れば、海の国の商圏もますます広がり、充実する。
大率の実情を探り、必要ならば突破口を開いてほしい。」
シオジは即座に勘違いする。
「つまり、文化侵攻すればいいんだな!」
宰相は目を閉じた。
「……偵察だ。戦闘は避けよ。
海路は交易の要衝ゆえ、王室は戦を望まぬ。」
海の民は一斉に姿勢を正したが、
ジダンだけは「戦わないのか?」と小声で呟いた。
ヒメ様が小声で囁く。
「師匠、文化侵攻は後で……まずは偵察です。」
「なるほど、偵察しながら文化侵攻だな!」
(※誰も止めない。止められない。)
宰相は深くため息をつきながらも、
どこかで「この勘違いが世界を動かすのだ」と悟っているようだった。
ヒメ様の受任式は、海の民の未来を静かに変えた。
シオジは反省することなく、堂々と師匠となり、
ヒメ様はその薫陶を受けて、さらに腹黒く成長していく。
大卒の偵察という任務は、戦いではなく“理解”と“文化”で道を開くもの。
次章では、博多の港の喧騒と、カラツへのゆるやかな旅路が描かれる。
物語はゆっくりと、しかし確実に新たな地平へ向かう。




