作戦会議
今回の話では、のちに「青の牙」が打ち合わせや打ち上げで長く利用することになる、
サーガの港町の酒場が初登場します。
この酒場のマスターは、今後物語に深く関わってくる予定の“良いキャラクター”です。
また、周囲のギャラリーたちも、勇者・賢者パーティのファンとして末永く登場し、
ときにご意見番として騒がしく、濃い存在感を放っていく予定です。
彼らがどんな形で物語に絡んでくるのか──どうぞご期待ください。
陸路でカラツへ侵攻――もとい冒険へ向かうには、道中にある大率(やまんとの残存軍管区)が守る地を越えなければ辿り着けない。海路は交易ルートになっているため、余計な軋轢は避けたかったのだ。
そのため、ジダンたちに与えられた最初の任務は、大率の偵察と地形の把握だった。
「どうせ、戦さ(いくさ)になるのなら、最初からバチーンと叩き潰せばいいものを」
ジダンが単純な疑問を口にする。ここは、冒険者御用達――サーガの港町にある酒場だ。「青の牙」の面々は未成年のため酒は頼めないが、冒険者の特権として利用でき、酒以外の飲食は可能だった。港町特有の開放感が漂う店内には、シオジたちを興味深そうにうかがう酔客も多い。
「そんなことを言っていると、命を取られることになる。大率の兵士の数もわかっていないのに」
偵察・斥候に重きを置くザグドスがジダンを諫めた。
「その通り。しかも地形もよくわかっていない。国として軍を用いて攻める予定でもない。大率自体、瑞穂の国との連携がうまく取れていない、という情報もある。味方にできずとも、陸路での交易を黙認してもらえるようにできれば、此度は御の字であろう」
シオジが補足する。
「でも、どうやってそれをするの?」
サクラが周りを見渡しながら質問した。
「少し、考えたことがあるんですが」ヒメが背伸びをしながら手を挙げる。
「一度、捕まってしまえば、戦いもなく話し合いに持ち込めると思うんですが……」
「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」
周囲のギャラリーも含め、全員から驚きの声が上がった。
「捕まるって……ヒメ様、それはつまり、わざと大率に拘束されるということか?」
エベロアが恐る恐る確認する。
ヒメはこくりと頷いた。
「はい。だって、向こうも海の民と戦う気はないはずです。
捕虜にしてしまえば、むしろ向こうが困ると思うんです。
だから、話し合いに持ち込めるかなって……」
「いやいやいやいや!」
ジダンが両手をぶんぶん振った。
「捕まるってことは、俺たちが負けるってことだろ!?
牙を抜かれてどうするんだ!」
「ジダンさん、牙は抜かれませんよ……」
サクラが苦笑しながら肩をすくめる。
ザグドスは腕を組んで、真面目に考え込んだ。
「しかし、ヒメ様の案は一理ある。
大率は瑞穂の国との連携がうまくいっていない。
捕虜を取っても扱いに困るだろう。
むしろ、こちらの意図を探るために対話を求めてくる可能性はある」
「だが、危険すぎる」
エベロアが即座に反論した。
「捕虜になるということは、相手の領域に完全に入るということだ。
地形も兵力もわからないままでは、帰ってこられないかもしれない」
「そうだぞ!」
ジダンが胸を張る。
「俺たちは“青の牙”だ!
牙は砕くためにある!
捕まるなんて、牙をしまうようなもんだ!」
「ジダンさん、牙はしまってください……」
サクラが小声で言う。
シオジは静かにヒメを見た。
「ヒメ様。あなたの案は大胆だ。
だが、俺たちはまだ大率の地形を知らない。
まずは地形を把握し、どこで捕まるのが一番安全かを考えるべきだ」
「捕まる前提なんですか!?」
エベロアが叫んだ。
「いや、文化侵攻の前提だ」
シオジが真顔で言う。
「師匠、それは違います……」
ヒメが額に手を当てた。
酒場の酔客たちは、もはや完全に“青の牙の会議”に聞き耳を立てていた。
「おい、あれが噂の青の牙か……」
「牙むき出しのやつがリーダーらしいぞ」
「参謀が一番危ないって聞いたが……」
ジダンは聞こえていないふりをしながら、牙をちらりと見せた。
「よし! まずは地形だ!
大率の陸路封鎖をぶち破るために、地形を読むぞ!」
「破るんじゃなくて、読むんです……」
ザグドスが訂正した。
シオジは立ち上がり、港の方を見た。
「では、明朝出発だ。
大率の兵力、地形、罠、すべてを把握する」
ヒメは小さく拳を握った。
「……そして、できれば捕まる方向で」
「捕まらない方向でお願いします!!」
エベロアとサクラが同時に叫んだ。
酒場は笑いに包まれた。
サーガから吉野ケ里、小群市を経由して北上すれば、ほどなく大率に至ります。ハクタはその北にあります。ハクタから海岸沿いの道を西へ進めば、カラツに着きます。ハクタも勢力圏に入れたいのは山々ですが、ここは規模が大きすぎて、後の戦国期でさえ領主の思い通りにならなかった港です。だからこそ、まずはカラツを勢力下に収めたい——それが海の国上層部の意志です。




