姉のお叱り
シオジの自信は何処から生まれるのでしょうね?
凱旋報告の熱気も冷めやらぬ夕刻。実家の私室に呼び出されたシオジを待っていたのは、予想通り、姉グローリアからの「きついきつい、お叱り」であった。
美しいオレンジ色の髪を揺らし、優雅に紅茶を傾ける姉の姿は、絵画のように美しい。しかし、その背後には明らかな怒気……いや、底知れぬ呆れが立ち込めていた。
「シオジ? 偉業を成し遂げたことは誇らしいわ。でもね、これからあなた達はどうやって、あの数十人もの子供達を育てて行くつもりなの?」
姉が心配そうに、しかし逃げ道を塞ぐような鋭い眼差しで尋ねる。
普通ならここで平伏し、宰相たる叔父や実家に泣きつくのが10代の少年の限界だろう。しかし、シオジは違った。
「そこです。姉様」
シオジは待ってましたとばかりに背を伸ばし、とっておきの“賢者スマイル”を浮かべて答えた。
「次は、那の津を攻めようと思います」
カチャリ、と。グローリアがティーカップをソーサーに置く音が、妙に大きく響いた。彼女の秀麗な顔に浮かんでいた不安な表情は、今や完全な頭痛を堪えるものへと変わっていく。
「……那の津と言っても、どの那の津?」
サーガの地より東北に位置するナノ国には、「那の津」を名乗る港が複数存在していた。
そして、瑞穂の国の中心が東遷する以前には、ナノ国こそが強大な勢力を誇っており、瑞穂の国の別名である『葦原の中津国』自体が、ナノ国を中心としていた時代の名残とも言われている。
歴史的にも経済的にも強大なプライドを持つその勢力圏に攻め込むなど、一介の冒険者が口にしていい言葉ではない。国を挙げての作戦でなければならないのは、火を見るよりも明らかだ。
グローリアはこめかみを押さえながら、もう一度弟に確認する。
「冒険者の仕事として、ナノ国を攻めるつもりなのかしら?」
「いえいえ、流石にそれは無謀です」
シオジはふふっと笑い、まるで「今日の夕飯はシチューにしましょう」とでも言うような、意気込みすら感じさせない平然とした雰囲気で言い放った。
「私は那の津全体を武力でどうこうする気はありません。ただ、あそこに住む人々の『心』を攻めたいだけなのです」
「……那の津の人の心、ですか?」
姉の問い返しに、シオジは自信満々に頷いた。その瞳には、すでに勝利を確信した(あるいは壮大な勘違いをしている)者特有の、怪しい光が宿っていた。
子供の頃の万能感が普通は成長の途中で勘違いだったと気づくものですが、なまじ成功体験を重ねてしまったために、こじらせてしまうことって有りますよね。ん?なんか、身に覚えが有るような…




