賢者のやらかし
ジダンパーティの華やかな凱旋ですが、何やら雲行きが怪しいようです。
「……あ、あの、シオジ、お兄ちゃん。あたしたち、本当にここで暮らしていいの?」
潮風が優しく吹き抜ける港町サーガの目抜き通り。
きらびやかな王都の威容を見上げて、怯えたようにシオジの裾を引くのは、泥に汚れた服を着た小さな女の子だった。その背後には、同じように不安げな瞳を揺らす、総勢数十人もの幼子たちが固まっている。
「もちろんだとも。売られる心配など万に一つもない。ここは誰もが真理を追究できる学びの地、いわば『賢者(予備軍)の揺り籠』さ」
シオジはいつものように、胸を張ってとっておきの“賢者スマイル”を浮かべた。
隣国の調略という、国家が何年かけても進展させられなかった超難関任務を、ジダンたちの圧倒的な武力と、シオジの「万物不変の定理」に基づく独自の交渉術(屁理屈とも言う)で一気に解決してみせたのだ。
パーティの評価は今や天元突破。これ以上ない凱旋となる……はずだった。
「お腹空いた……」
「サクラ姉さん、僕ら本当にどこかに売られるの?」
「バカ言わないの。売るならその前にあいつ(シオジ)を皿洗いとして売っぱらってるわ」
幼子たちに優しく、しかしシオジにはどす黒い視線を向けながらサクラが吐き捨てる。
その知らせは、一足早く王宮へと届けられていた。
報告を受けた宰相——すなわちシオジの叔父は、執務室で震える手で報告書を握りしめ、
「……シオジィィィィィッ!!」
と、実の甥の名を血を吐くような思いで歯を食いしばりながら呟いたというが、それはまた別の記録の話である。
王宮、謁見の間。
現王シャンパニ17世をはじめ、国家の重鎮たちが揃う前での帰還報告は、厳かながらも奇妙な緊迫感に包まれていた。
「……で。シオジよ。あの者たちは、どうするつもりなのじゃ?」
玉座から放たれた王の問いは、優しくも鋭く突き刺さる。
まさか隣国の孤児たちを数十人も「連れて帰ってくる」など、いくら演目の主役に選んだとはいえ、大人たちの想定を遥かに超えていた。
しかし、賢者予定者は一歩前へ出ると、平然と頭を下げた。
「どうすると言っても、イチヒメノミコト様にお預かりいただこうかと……」
「なっ……!?」
その刹那、謁見の間に激震が走った。
背後に控えていたサクラが、扇で口元を隠しながらボソリと不遜な毒を吐く。
(あの腹黒美少女に委ねて、まともに育つのかしら……?)
その呟きが聞こえたわけではないだろうが、王の隣に立つ金髪の青年——アニノミコトが、珍しく怒りをあらわにして身を乗り出した。
「しかし、その費えは如何する所存か!? 突然降って湧いた数十人の養育費だぞ。まさか、我が妹にすべて負担させようというのか!?」
王族としての、そして兄としての至極真っ当な怒り。
だが、シオジの脳内フィルターはこれを美しく変換していた。
(なるほど、アニノミコト様は妹君の財政を心配されているフリをして、この子たちが将来、我が国の優秀な『内政の駒』に育つかテストされているのだな。ならば、答えは一つ)
「故あって、私を、そして我が国を頼ってきた子らです」
シオジは堂々と胸を張り、言い放った。
「費えは……このパーティの稼ぎにて何とかしましょう!」
しんと、静まり返る謁見の間。
そして次の瞬間。
「「「「「「えッ!?!?!?!?!?」」」」」」
王宮の天井がひび割れんばかりの絶叫が響き渡った。
声を上げたのは、王や宰相ではない。ジダンをはじめとする、**何も相談されていなかったパーティの仲間たち全員**であった。
「ちょ、シオジ!? 俺、新しい大剣買おうと……」
「私も聖水(高級品)のストックを……」
仲間たちの悲痛な訴えを背中に浴びながらも、シオジは「フッ、これぞノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)さ」とでも言いたげなドヤ顔を崩さない。
その様子を見て、王と宰相がチロリと視線を交わした。
その目は、「この若造を……我々は見誤った(ただのこじらせ少年ではなく、本物の爆弾だった)か……?」という、深い後悔に満ちていた。
「いずれにしても、隣国の調略という大功を立てたのは事実。その貢献には報いねばならん。それが君主の仕事だ」
王の苦々しくも度量の広い宣言により、一同は莫大な褒賞(※ただし大半は孤児たちの養育費にスライドされる)を得て、謁見は無事に(?)終了した。
退出するパーティの面々の顔は、ジダンも含めて一様に真っ白だった。
「シオジ……お前、後で絶対にグーで殴るからな……」
「私も神に祈るふりをして呪いを編むわ……」
「ははは、皆、照れなくていい。これぞ真の英雄の歩みだ」
どこまでも前向きな賢者候補。しかし、彼はまだ気づいていなかった。
王宮の廊下の影で、般若のような笑顔を浮かべた実の姉・グローリアが、極太のピコピコハンマー(あるいはそれに類する鈍器)を背中に隠して待機していることに。
実家から与えられる予定の、きついきつい、お叱り。
これが、後に「腐りかけの賢者(笑)」として歴史に永く刻まれることになる、シオジの華々しき『やらかし第1号』の結末であった。
シオジのメンタルの強さ、勘違いから来る無限の自信を見習いたいです。友達に言わせると、僕もその傾向があるそうですが…自信満々に間違った説明をしてるのに、実印持ってたら預けたかもと言われたことが有ります。もちろん預けずに居て、正解でした。僕もやらかしてきたな〜




