6話・単純
コロシアムで<クレイ>と呼ばれていた男は、ただ力の強いだけの小娘に付き従うつもりは毛頭無かった。
ある程度追っ手を撒けるところまで逃げることが出来たなら、さっさと集団を抜ける気だったのだ。
道中、海に出ようという話になったので港に着いたなら、小娘達とは違う船を奪取しておさらばすればいい。
なんだったら戦闘好きの<傷>も小娘といるより愉しめるぞと誘って一緒に逃げればいい。
<傷>は<片目>に次いでこの中では強いからきっとその力を発揮してくれるだろう、そう思っていた。
「弱いものイジメヨクナイ」
小娘は、そう言って両手を前方に差し出すと、海が凄い音を立てて盛り上がった。
「ドラゴン・・・!!??」
ざわりと肌が粟立つ。ドラゴンと言えば、世界で最も恐ろしいと言われているイキモノだ。
肌は硬く、砲弾を跳ね返し突き立てた剣は傷を付けることなく折れる。
吐く息吹は灼熱の業火となり周囲を焦土とし、鋭い牙は岩を突き通す。
その恐ろしさを、世界中の餓鬼から年寄りまで知っている。
だからこそ突然現れたドラゴンにいつでも対応できるように身構えたのだが、不意に聞こえた小娘の場違いな声。
「初めてだから、ずんぐりむっくりな龍になっちゃった」
残念がるその声音に、ドラゴンが本物でないことに気が付き瞠目した。
俺だけじゃない、全員が、小娘を見ていた。
「お嬢は、水術遣いか?」
<片目>の戸惑いを含んだ疑問に、小娘はなんてことのないように首を横に振った。
「イメージ力さえあれば意外と便利な《重力》の能力者みたいだよ」
<いめーじ>?<じゅうりょく>?<のうりょくしゃ>?
聞き覚えのない単語をなんてことのないように言う小娘に、初めて浮かんだのは畏怖だった。
コロシアムで戦う者は恐怖心が麻痺する者が多い。
身体が恐怖ですくんで、いざという時動けなければそのまま死に繋がるからだ。
随分久しぶりの感覚に、肌は粟立ったまま、此方に背中を向ける小娘を見れば、同じように他の、<傷>を含む小娘を小娘と侮っていた奴等も見ていた。
口の端が持ち上がるのが自分でもわかった。
「面白い」
小娘、基、嬢について行ってみよう。
単純?男は単純なものさ。
女のように、頭で考えるのは苦手で直感で動く奴が多い・・・俺たちのように。
「嬢、メシが出来たぞ」
「グレイ!さっきから良い匂いが甲板まで届いていたわ」
予想通りというか、幼かった鈴を含め料理をしたことの無かったコロシアムの戦士の中、唯一手先が器用だった<クレイ>改め<グレイ>・・・灰色の髪から付けられた・・・は、コックとして船で無くてはならぬ存在になっており、今じゃ自他共に認める鈴に激甘だ。
「嬢に美味いもん食ってもらいたくてこの間の島の定食屋でこの俺が習ったんだ。しっかり味わってくれや」
「ホント?!楽しみ!」
灰色の髪をオールバックにし、ニヒルに笑うグレイは船で最年長35歳の(おっさん)魔術遣いである。
魔術とは、魔族と呼ばれる種族と契約した者にしか扱えない力で、エルフの精霊術や神官の祈りとは異なり、契約した魔族の能力を借りて使用することが出来る召還者に近い存在である。
グレイのコロシアムでの名前は<クレイ(泥)>。泥の人形を操り戦うことから付けられた名前であった。
非情で利己的だとレイヴン達からは思われていたグレイだったが、今ではすっかり鈴にだけ甘いただのオッさんとなっている。
「嬢にはデザート用意しているからな」
「グレイ大好きよ!」
その鈴の一言に次はどんなモノを作ってやろうかと考えるグレイの足取りは軽い。
「単純?結構結構。
男は単純な生き物なのさ。存外な」
単純・・・女もそうですが、戦いに生きる男性は力に惚れ込む、指揮に惚れ込む、人格に惚れ込むイメージです。
それにしても人物像の表現がへたくそです。どうしたら・・・。




