5話・出航!
ボクにとって、この目は厄介なモノでしかなかった。
母さんは、ボクを決して家の外に出そうとしなかった。ボクにとっては外に出ないことや母さんと二人っきりの生活が当たり前だった。
だって生まれたときからそうなのだ。否定する人もいないのだから、疑問だって浮かぶことはなかった。
母さんは、母さんなりに必死でボクを愛そうとしてくれていたように思う。
少なくても、ボクは自分が不幸だと思ったことはなかった。
あの日まで、当然の生活があったのに・・・。
「ねえ、お母さん。ボクも外に出てみたい」
何気ない一言だった。少なくてもボクにとっては今日のご飯を聞くくらい、何気ない一言だったのに。
ポキッという音が聞こえた気がした。
・・・それはずっと頑張って耐えていた母さんの心がおれる音だった。
「そんなに外に出たいなら、だしてあげる。かあさん、もうつかれたの」
「え?」
「ちょっと待ってなさい」
ふらふらと家を出て行った母さん。おかしいな、って思いながら言いつけ通り待っていた。
母さんが戻ってきたとき、後ろに大人の男のヒトがいた。初めて見る人だった。
そのヒトはニヤリと笑ってボクの腕を掴み、巾着を母さんに投げ渡すとボクを引き摺って外に出し扉は固く閉じられた。
理解できなくて、母さん!と叫んだけれど、扉は開かないし、町中を歩けば町の人はひそひそと遠巻きにボクを見ていた。
「お前は母親に、一日分のパン代と引き替えに俺に売られたのさ。捨てられたんだよ」
「すてられ・・・?」
「理解できねぇか?ようするに、お前の母さんとは二度と会えないってことさ。
恨むなら俺じゃなくてお前のその赤い目を恨むんだな。気色わりい目だ。
だが、そんな目でも好き者はいるからな。せいぜいパンより高く売れてくれよ」
ガハハと笑った男の手で、ボクは船に乗せられ奴隷になった。
男は、ボクの顔が歪むのが好きだと言って、わざわざボクに奴隷とは何か、これからどうなるのかを懇切丁寧に教えた。
ボクが泣いたり母さんと呼ぶ度、男はゲラゲラと笑った。
悔しかった。哀しかった。
そのうち、ボクの一言が今の状況をつくっているのだと知って、息が出来ないほど苦しくなった。
ボクは、この目が憎かった。
魔族の目だ、呪われた目だ、不吉だ、化け物だ、と言われる度に嫌いになった。
抉りたくなった。
だから、こんな目を綺麗な目だと笑ってくれるヒトが現れるなんて、思わなかったんだ。
「流石に使い方が分かっただけじゃまだまだ、かな」
ずんぐりむっくりした水の竜は、威嚇には十分だったらしく帆船からわらわらとヒトが飛び出し我先にと乗員は凄い速さで遠のいた。
「よし、帆船奪取だね!」
にんまり笑えば、驚き動きが止まっていたみんなも動き出す。
そこからはあっという間だった。
みんな、剣奴じゃなくて実は強盗だったんじゃない?と不名誉な感想を抱いてしまうくらい鮮やかに船を奪取し、港を後にした。
「暫くあの町は大騒ぎだぜ」
「そうそう。竜が出たと思ってるからね」
「おまけに剣奴も脱走したしねーふふふ」
「まさか嬢にあんな能力があったとは思わなかったぞ」
「今度、どうだ?一戦かまえねーか?」
数えて10名の者が乗るにはあまりに大きい帆船に良い拾いモノをしたと笑い、剣奴以外の誘拐した1人を見る。
「それにしても、赤目のガキをなんで乗せたんだ?役に立つのか?」
傷のヒトが首を傾げたので首を振っておく。
「役に立つか立たないか、じゃなくてね。ちょっと放っておけなかったの。
だって私よりちっちゃいもの」
「確かにチビだしひょろいな。俺等のが健康に見えるぜ?
まあ、とりあえず飯だな」
眼帯さんが船内に入っていくのに続いて何人か続く。多分、招いていない乗船者がいないかも確認に行ったのだと思う。
甲板には私と少年と傷さんと獅子さんが残る。
「それにしても、貴方の目!とっても綺麗ね!宝石みたいだわ!」
遠目に見てからずっと思っていた事を言えば、少年はキョトンとした顔になる。
すかさず、傷さんがそうかぁ?と唸った。
「赤い目は不吉って昔から言うじゃねーか」
「ええー?綺麗じゃん。大体目の色なんて色々なんだから、赤だけ不吉なんて変な話だと思わない?」
「あー?そりゃそうか」
「そうそう」
「(一理あるが、傷のは単純すぎるな)」
獅子さんが溜息を吐いていたのに気付かず、未だ心此処に在らず、という様子の少年に手を差し出した。
「私、スズ。良いヨって言われてないのに連れて来ちゃってごめんね。戻りたい?」
その言葉に、我に返ったのかぶんぶんと首を横に振る。
あまりに必死に振るから、ちょっとくすんだ髪を数回撫でるとびっくりしたように固まった。
「いくとこないなら、一緒に国を出て海に出よう?みんな目的バラバラだから、メンバーが増えたって一緒だよ」
「いっしょ・・・」
「うん。一緒」
へらりと笑えば、少年は泣きじゃくって何度も頷いた。
「あーぁ、嬢が泣かしたー」
「え?!ごめんね、頭怪我とかしてた!!??」
わたわたしたのは言うまでもない。
「もいっかい!ね?
私、スズ!よろしくね。貴方は?」
「・・・ボクは、リン・・・沢山頑張るから、ボクを仲間に入れて・・・?」
おずおずと言う少年改めリンに、勿論!と私も、傷さんも、獅子さんも、戻ってきたみんなも大きく頷いたのは言うまでもない。




