3話・選択
確証はないが確信はしていた。
だから、振り上げた拳を地面に降り下ろした時、きっとコロシアムに亀裂くらい入るだろう、と思ったのだ。
「やっぱり怪力かなあ?」
戦闘開始の合図の銅鑼に、先頭に槍を構えた眼帯のマッチョさんが走ってきた。
だから、拳を気持ち強めに地面に降り下ろした。
土台に亀裂くらい入れば怯むかもしれないし、あわよくばその隙に逃げたかったから。
しかし、結果は亀裂どころじゃなくコロシアムが半壊し、地面は隆起し槍を構えた眼帯のマッチョさん含む相手役皆、でっかい瘤を作って伸びていた。あら?
紆余曲折を経て、コロシアムから逃げるのを誘ったら、眼帯のマッチョさん含め全員ニヤリとしながら誘いを受けてくれて、一緒に逃げ出す。
「お嬢、あの」
「うん?どうしたの?のっぽさん」
走っていたらおずおずと躊躇いがちに声をかけられた。のっぽさんは、渾名の通りのっぽで、多分2mは身長あるはず。
他の皆に比べてヒョロい。比べなくてもヒョロい。
「あの、その、ボクの事降ろして欲しいな?なんて」
「え、腰抜けたんだよね?立てるの?それに、立ち止まれないからムリ!」
「(女の子に横抱きされてるなんて恥ずかしぬ)」
「(哀れ)」
一緒に走っている皆がなんとも言えない顔でのっぽさんを見てるのが不思議だったけど、尋ねる余裕もないし、ひたすら走る。
「しかし、何処まで逃げるか」
「何処まで逃げれるか、じゃない?」
前を先導していた眼帯のマッチョさんと、金髪ポニーテールの細身のお兄さんのやり取りに、周りの皆もざわつく。
捕まったらヤバイのはわかる。
まだ確証のない発現した怪力(仮)の能力で、どこまで彼等を守れるだろう?
私が、誘ったのだ。
私が、彼等を守らなきゃ誰が守る?
「(何か、ない?追手から逃げる術は)」
のっぽさん越しに、辺りを伺う。鬼ごっこの逃げ足の速さとかくれんぼの優勝率は、学校で一番だったんだから!
「ん?」
キラリと光る何かを目の端で捉えた。
「あれ、海?」
「そうだよ」
「海・・・・」
海無し地方出身の私は、ほぼ始めてみる海に驚いた。路地の先にちょこっとしか見えないソレに、心臓はドキドキしている。
「お嬢は海がスキなのか?」
眼帯のマッチョさんの言葉に、うん。と何時の間にか頷いていた。
青くてキラキラしている海はとても綺麗だから・・・。
「お嬢、迷子って言ったな?」
「うん」
「この国じゃないんだな?」
「違う」
「なら、決まりだ。
このまま海に出ようぜ。
どうせ追われる身なんだ。逃げる先が陸しかないわけじゃねぇ・・・俺は海に出るのはこの国に来た時以来だが、お嬢と一緒なら楽しいと思うしな」
眼帯マッチョさんの言葉に、驚いている間に、目配せしあった皆は楽しそうにニヤリと笑った。
「お嬢、最終決定はお嬢がしてくれ。俺達は、俺は、アンタともっと一緒にいてみたい」
まっすぐ見られると、恥ずかしい。
でも、不思議な事に(先生やお母さんに怒られた時のように)目をそむける事ができなかった。
「・・・・わかった。
私も、帰るためにも海に出たい。まだ皆と出会ってちょっとだけど、私が皆を誘ったんだもの。もっと一緒に行きたい、と思う」
言いだしっぺだし、と笑えば眼帯マッチョさんはニヤリとではなく、顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに笑ってくれた。
自分よりずぅっと大人なのに、私の言葉に喜んでくれる皆をもっと大事にしたいと思う。
「スズ、見てたの?」
「あら、照れるじゃない」
のっぽさんのルートと金髪のサラ(オネェ)は2人とも主力戦闘員だ。武器はルートが大きな剣で、サラは薙刀。2人とも軽々重たい武器を扱うからカッコイイ。
ルートなんて気弱そうな第一印象だったのに、海に出て5年も経つと凄く肝が据わって来た・・・気がする・・・
サラは相変わらず細身なのに、自分と同じくらいの長さの薙刀を振り回すから凄い。
そんな2人の鍛錬を見るのはスキだ。
荒々しいけれど、私や皆を守る為に磨かれた腕だからかもしれない。




