2話・始まり
船の先端に立ち、頬を撫でる髪を感じながらじっと水平線を見つめていた鈴は、晴天の空を仰ぎ見た。
どこまでも続く空と海は、鈴がいた世界とあまり変わらない。
空も海も青いし、雲は白い。昼間は太陽が昇るし、夜になれば月が昇る。
それでも、この世界は鈴の世界ではない。
弾かれた瞬間を今でも覚えている。
鈴は、ある年齢になると特殊な能力が発現する可能性を秘めた子供の一人だった。
特殊な能力というのは、超能力や身体能力が異様に向上したり
火や水を操ったり、獅子や鷹なんかに変化させたりと多種多様で、何故そんな能力を持った子が生まれるのかは分かっていなかった。
ただ、遺伝子の問題が一番可能性があったらしい、と鈴は親の会話から推測していた。
能力は、必ずしも発現するわけではない。発現すると、政府預かりになるから、能力は無ければ良いとすら思っていた。
あの日は丁度、学校で発現する能力を勉強していたところだった。
突然、隣の子が能力を発現させたのだ。余りにも突然過ぎて、能力者の担任も対応が出来ず、鈴は能力に巻き込まれた。
最後に耳にしたのは、担任の暴走!という焦った声だった。
強い力に引っ張られる形で、気づけば鈴は石畳の路地裏のような場所に立っていた。
戸惑いは勿論、焦りもあるなか、鈴は現状把握の為に周囲を見渡し、そして自分がいる場所が違う世界と知ったのだ。
「空は青いし雲は白い。
そして月は2つ、かぁ」
月の数が違う。それは誤魔化せない証拠だった。
驚かないわけがない。
何度も目を擦り、頬を摘まみ、現実と知るとへたりこんだ。
「山本このやろーのせいだ」
原因である隣の席の山本礒六(両親が偉人のファンらしく古風な名前だ)を罵ってもう一度、空を仰いだ。
月はやっぱり2つある。
今後どうやって生きていこうと悩んでいた鈴はあっという間に怪しい男に浚われ、意識を失った。
気付けば湿った石造りの部屋で、鉄格子に牢屋だと気付く。
「この枷ナニ?そーいう趣味の店?」
「そーいう店?
よく分からんが、お前はこれからコロシアムのステージに立つのさ。
猛者揃いに殺されちまうんだよ」
諦めを浮かべたザンバラ髪のお姉さんの言葉は、ただの学生でしかなかった鈴には理解出来なかった。
分かるのは、命の危険があることだけ。
「勘弁してよ私はまだピチピチの12歳なのに」
やりたいことが山程ある。
「山本このやろー」
もう一度、舌打ちと共に元凶の名前を口にすれば、ミシィっという嫌な音がした。
「あらら、あら?」
大して力を入れたわけじゃないのに、頑丈な筈の枷が外れかけていた。
「ここにきての?」
小石を摘まんでそっと力を込めれば、それはまるで砂糖菓子のように砕け粉々になった。
「怪力?」
にしては、ちょっと変?と小首を傾げる。
「おい、時間だ」
「へあ??!」
牢が開き腕を捕まれ引っ張り出された。
「せいぜい、観客を楽しませて死ねよ。
でねぇと死体がどうなるか分からんぜ」
「はあ・・・?」
意味わからん、という顔をすれば可哀想なものを見る目で見られた。
「(素晴らしく失礼なオッサン)」
ミシィと枷を軋ませて、鈴はコロシアムに現実味の無さを感じながら足を踏み入れたのだった。




