美濃の防波堤、秋山隊の粉砕
武田信玄の西上作戦は、戦国という名の市場を揺るがす最大の「荒波」だった。本隊は東海道から家康を圧迫し、秋山信友率いる別働隊が美濃へ侵攻を開始したという報が、小谷城の私のもとへ届いた。
「殿、秋山隊の狙いは明らかです。織田の防衛線を突き、美濃を混乱させることで本隊の道を切り開くつもりでしょう」
遠藤直経が戦況図を指す。この美濃の山道が突破されれば、岐阜城は風前の灯火となる。織田という巨大企業が揺らげば、私の築き上げた物流帝国も崩壊する。
「……秋山か。武田の牙とも言える猛者だな」
私は地図を見つめる。ここが浅井長政としての「防波堤」としての腕の見せ所だ。私は小谷城から精鋭を出し、美濃の山間部、隘路へと先回りした。
戦場となったのは、霧の深い谷間だった。秋山隊は高らかなホラ貝の音と共に、赤い武田の旗を翻して押し寄せてくる。
「総員、構えろ! ここは俺たちの『商圏』だ。勝手に踏み込ませるな!」
私は正面からの力押しは避けた。霧の中に甲賀忍びを潜ませ、秋山隊が隘路に入った瞬間、崖の上から大量の火矢と石を落とさせた。
加えて、地形を熟知した浅井軍が、秋山隊の側面を狙い撃つ。狭い道では武田の騎馬隊も無力だ。
「何だこの布陣は! どこから狙われている!」
秋山が混乱する中、私は遠藤直経と共に直接、前線へ馬を走らせた。
「秋山! ここは物流の要所だ。お前のような野蛮な侵略者が通っていい場所じゃない!」
浅井の精鋭たちが、秋山隊の陣形を切り崩す。秋山は奮戦したが、退路を断たれた武田兵たちは、次第に瓦解していった。私は戦況を見極め、秋山を追撃せず、あえて退路を一つ残した。
「全軍、追撃はそこまでだ。彼らを逃がせ。これ以上、武田本隊を本気で怒らせる必要はない。秋山が『浅井の防衛線は突破不可能』だと信玄に報告すれば、奴らは別のルートを探すしかなくなる」
秋山隊はボロボロになりながら美濃を撤退していった。
私は戦場を眺め、深く息を吐く。信長には「美濃は死守した」と報告すればよい。だが、真の目的は、この勝利で織田からの評価を上げつつ、武田に対して「浅井には関わらぬ方が賢明だ」という警告を植え付けることだ。
(信長、俺はあんたの盾になった。だが、この防衛には相応の『対価』を払ってもらうぞ)
私は次の評定に備え、佐吉に命じた。
「今回の戦功を材料に、近江・若狭・越前・加賀の『物流独占権』を、織田から正式な書状として引き出すぞ」
戦乱の世において、戦うことだけが能ではない。戦うことで、いかに自分たちの市場を守り、拡大させるか。秋山の猛攻を止めたことで、俺の物流帝国は名実ともに、織田信長の天下布武を支える不可欠なインフラとなった。




