一向一揆という名の「労働争議」、逆手に取る一手
本願寺顕如からの要求は、まさに理不尽な労働争議そのものだった。「信仰の地」という名目を盾に、私の物流網から通行税を免除せよというのだ。しかも、彼らは加賀の信徒を煽り、越前の浅井支配地域へ執拗な嫌がらせの侵攻を繰り返していた。
「殿、加賀の一向一揆勢が、越前の国境を越えました。湊の倉庫が焼かれ、商人が引き揚げ始めております」
磯野員昌の報告に、私は地図を広げた。加賀は本願寺の重要拠点だが、今の彼らは京での包囲網工作に注力しており、加賀本国の守りは手薄になっているはずだ。
(なるほど。向こうが『信仰』で俺の商圏を乱すなら、俺は『経済』で彼らの拠点を接収するまでだ)
私はあえて「防衛」の兵を出さず、むしろ国境付近の拠点をわざと「放棄」してみせた。本願寺の信徒たちは、浅井が引いたことに歓喜し、勢いづいて越前深くへ踏み込んでくる。
「殿、よろしいのですか? 越前が荒らされます」
「いいや、これで『加賀を攻める大義名分』ができる。彼らが越前で略奪を働いた事実を、近隣の地侍たちに徹底的に周知させろ。そして、『一向一揆の暴走から越前の秩序を守るため』という名目で、加賀への逆侵攻を開始する」
本願寺が加賀の兵力を越前に割いたこの隙に、私は甲賀衆を密かに加賀へ送り込んだ。彼らの任務は破壊ではなく「調略」。加賀国内で、一向宗の支配に不満を持つ地侍や、実利を求める有力商人と接触させ、浅井の物流システムへの加入を説得する。
数日後、加賀の防衛が手薄になったタイミングを見計らい、私は手勢を率いて一気に国境を越えた。
「本願寺の狂信者どもに、俺たちの商売を邪魔させるな! これより加賀は、浅井の物流ネットワークの『直轄管理地』とする!」
越前へ攻め入っていた信徒たちは、本拠地である加賀が浅井の手に落ちたという報を受け、総崩れとなった。彼らは「信仰の拠点」を失い、行く当てもなく霧散していく。
私は加賀の要所に、浅井の代官と商人を配置した。
本願寺側は激怒し、さらなる一揆を煽るだろう。だが、これで加賀という広大な生産拠点と、日本海側の重要な港湾が、私の物流帝国に組み込まれたことになる。
(顕如よ、あんたは一揆で戦場を混乱させることしか考えていない。だが、俺は戦場そのものを『経済圏』に変える。あんたの聖域は、俺の物流網の一部になったんだ)
岐阜に戻り、信長に加賀平定の報を入れると、信長は目を細めた。
「お主、宗教の砦を戦力ではなく『物流』で手懐けたというわけか。……これで比叡山も、いずれは同じ末路を辿るということだな」
「比叡山は手強いですが、彼らもまた『寺院の維持』という経営課題を抱えています。いずれ交渉のテーブルに引きずり出せるでしょう」
織田信長は、俺という「バランス調整役」の恐ろしさを、少しずつ理解し始めていた。将軍、宗教、武田……これら全ての強大な勢力を、俺は「物流」という紐で手繰り寄せ、一つずつ無力化していく。
だが、盤面が広がるほど、盤上を支配する「力」が強くなる。
次なる危機は、間違いなく「武田信玄」の直接介入だ。信長と信玄、この二つの巨大企業が衝突する時、俺はどう動くべきか。




