四回、センターマン
入部届を提出し、野球部の一員となった國枝。
四日後の新入生合宿の前に実力を見せ付けるつもりで臨む。
その初日に見せた守備の実力とは……
「さて……と。」
いよいよ入部届を提出し、今日から練習に参加だ。
オレは少しわくわくしながら白い練習着に着替えた。
シューズに履き替えるところでクラスの女子のグループに声をかけられたが、軽く受け答えした。
なんせ今日から久しぶりに野球ができるんだから。
やはり楽しみではある。
グラウンドにつくともうすでに何人かが練習を始めていた。
そのうち三年生の何人かに声をかけられた。
「お、國枝じゃんか!キャッチボールしようぜ。」
「なんか、その真っ白な格好w」
「お前、ホワイトマンやん!」
野球の練習着というのはだいたい白いズボンにチームカラーのアンダーシャツと呼ばれるTシャツ。
チームによってはその上から白いユニフォームを着る。
しかし、今の俺は白いシャツに白いズボン、おまけにソックスも白とまさに「全身白」であった。
だからか好き勝手なあだ名を付けられてしまった。
でも毎日通った成果かすっかり顔を覚えられてはいたのでそれだけでよしとしよう。
先輩とキャッチボールをしていると、向こう側で河野と渡辺がキャッチボールをしている。
やはり、何度観てもいい動きだ。
どの指導者が見てもそう思うだろうといえるほど動きが良かった。
しかし、オレは二人に負ける気がしなかった。
「おーい、フリーバッティングするからあがれー。」
キャプテンの号令でキャッチボールを終え、他の一年生とともに声出しのために一列に並ぶ。
「よーし、じゃあ今日は外野に………」
キャプテンが守備につく一年生を選んでいったが、残念ながら一番端にいたオレは選ばれなかった。
ちょっと落ち込んでいると、さっきまでキャッチボールの相手をしていた三年生がキャプテンに近づいて訴えかけた。
「おい、若生、ホワイトマンも守備させよーぜ!上手いぞ、こいつ。」
「なんせオレの代わりのレギュラーやからな!」
「あぁ、國枝か、後で好きなポジションつかせてやるよ。」
「どこがいい?やっぱセンター?」
……
やっぱり毎日行ってて良かった…………
あらためて実感。
夕日がグラウンドを照らし、練習もあと一時間ほどになった。
「よし、國枝、センター!」
キャプテンの声がかかると同時に待ってましたと外野へ一目散に走っていった。
いよいよ中学野球デビューだ。
どんな形であれやはり野球をやるのは好きである。
オレは守備位置につくと、小学校の頃からのジンクスで守備位置に向かって小さく一礼し、懐かしの感覚に胸に手を当て感動に浸っていた。
「國枝、危ない!」
キャプテンの声で後ろを振り返ると、俺の眼に飛び込んできたものは一直線にこっちをめがけて飛んでくる真っ白なボール。
オレはとっさに左手を出し、捕球する。
グラブにボールが収まる音がグラウンドにこだまする。
どうやら守備位置につく前にピッチャーが投球したようだ。
普通確認してから投げるだろ。(まあ俺が悪いのだが)
間一髪、反応が間に合ってよかった………
オレは心配する声に答えながら返球した。
さぁて、なら早速いきますか。
このチームの個々の能力は大体頭に入っているが、打撃の要はキャプテンの若生先輩とファーストの小久保先輩(先程のライナーや河野たちの連携プレーの際打席に立っていた先輩)の二人だろう。
なにより二人とも五十メートル走6.5をマークしていて、長打力は群を抜いている。
しかし、どんなに優れた打者でも打球はパターン化してくるものだ。
それらを今までの打席、スイングなどのデータですぐに把握できるのは、一流の外野手の証と聞いたことがあるが、そうだとしたら俺は一流なんだろうな………
キンっといった音とともに打球はセンター前に転がってきた。
落ち着いて捕球し、ファーストに送球。アウト。
ナイスセンターという声を背中に受けながら次のシフトをとる。
「次はっと………」
その日に限って打球はセンター方向に集まってきた。
それら全てをシフトを組み替えて巧くさばき、いよいよ残り最後の打者となった。
辺りは薄暗くなり、視力の弱い選手たちは続々とベンチに引き下がっていった。
打者は、小久保先輩。
シフトを少しレフトに寄せ、先輩の特徴ともいえるライナー性の打球に備えた。
オレの守備の能力は、大人達からも県内トップクラスと評されていた。その理由は、研ぎ澄まされた外野の勘、そして……
カキィン!
鋭い打球はショート後方を襲う。
インパクトの瞬間に打球の方向を判断し、走った。
しかし、打球があまりに速く、小学校を出たばかりのオレの平凡な足では間に合わない、ならば……
走りながら体勢を低くし、白球に向かって飛び込む。
バシィ!
瞬間、左手に鋭い痛み。
暫くの間、グラウンドに沈黙。
片付けを始めだした陸上部やサッカー部までもが唖然とした表情でこっちを見ている。
「す、すげぇー!!」
先輩達が一斉に歓声をあげ、あがっていくオレを出迎えた。
「え、お前何者!?」
「あれやろ、お前、センターマンやろ!」
「センターマンすげぇー!」
先輩達に囲まれている間に一年生の列をふと見ると、みんな信じられないといったような顔をしていた。
これでみんなに実力を見せつけることができた、しかし俺は………
とある不安材料も、この大歓声の中にかき消されていった。




