三回、内部生
それから一週間、オレは毎日欠かさず野球部の見学に行った。
他に新入生が来ずに、一人で見学する日もあったが、毎日顔を出した。
今のうちに先輩に顔を覚えられるのもいいものだろう。何かと便利だし。
そういった俺の狙いは当たり、一週間が経つころにはブルペンキャッチャーなどを任された。
そして一週間がたち、いよいよ待ちに待った入部届提出開始になった。
いよいよかぁ、
朝、ちょっとわくわくしながらいつもの席に着いた。
「ねぇ、何部に入る?」
「ああ、野球部だよ。」
隣の席の女の子にそう話しかけられたので、入部届を見せながら答えた。
見せながら。
見せ……な………がら?
ない…?
机の中にもカバンの中にもなかった。
そういえば親にもまだ見せてないよ、入部希望届…………
「くっそお……」
結局その日もいつものベンチに座って見学する羽目になった。
ピッチャーは誰もブルペンに行かなかったので、とてもじゃないが暇だ。
他の一年生は何人もフリーバッティングの守備についてるのに……
「バッチこーい!」
キン!
「うわー!」
一週間見ていてだいたいわかったが、この野球部は顧問が練習に来ないので、アップなしでキャッチボール、そして好きなだけフリーバッティングをして終わりといった塩梅だ。
守備につくのは専らベンチ外の二年生や気が向いた三年生と指名された一年生だけだった。
他の二、三年生はベンチ前で各々好きなことをやり、一年生は基本一列に並べられていた。
それにしても…
ピッチャーは100km/hそこそこだし暴投が多いしバッターは三振の山を築かれるし守備陣はエラーのパラダイス…
お…面白くねぇ……
本当に噂に違わぬ素人集団だった。
「次、サードに河野、ショートに渡辺!」
キャプテンがそう言うと、真っ白の帽子を被った一年生が指定されたポジションへ走っていった。
オレはその二人に見覚えがあった。
「あ、あの時の二人か。」
初めて見学に来た時にキャッチボールをしていた二人だ。
あの二人なら少しは見ごたえがあるだろう。
動きはかなり磨かれた印象があったが、実際の守備はどんなものか、お手並み拝見といこうか。
キン!
痛烈な金属バットの音とともに打球は三遊間へ。
「これは抜ける…」
そう呟くほどいい当たりだった。
しかし予想とは裏腹にショートが飛び込み、難なくボールの勢いを殺した。
「河野!」
呼ばれたサードの河野は、ショートの渡辺からのトスを受け取り、一塁に送球する。
白球がスーッときれいな回転がかかった音を立てて伸び、ファーストのグラブに収まった。
……………………
グラウンドを沈黙が襲う。
この二人、レベルが違う………
きっとそれはこのグラウンドにいた全員が感じているだろう。
それほど今のプレーは圧巻だった。
「まぁあの二人なら当然だよ。」
一列に並ばされている一年生の一人が呟いた。
「そうだよな、あの二人だもん。」
「これくらい普通でしょ。」
他の一年生も何人か反応する。
この学校は小中一貫でオレは中学校からのいわゆる「外部生」だが、小学校からのエスカレーター組、
いわゆる「内部生」が学年の3分の2を占める。
あの二人や今話していた一年生はどうやら内部生のようだ。
しかし、あんな動きができる内野手なんて小学校の頃にもあまり見たことがない。
一応古豪チームではあったが、そんな選手にほとんど出会うこともなく過ごした。
それなのにこんな守備をこんな弱小チームで観ることができるとは思わなかった。
なんなんだ、この二人。
予想だにしない出会いに俺は驚くしかなかった。
「あいつらと張り合うってのも楽しそうだな…」
練習に参加するのが一層楽しみだ。
次の日…
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
また入部届け忘れた…
結局その日の放課後も見学だった。
カラスの鳴き声が、自分をバカにしているようでとても惨めだった。
「ちくしょう…(泣)」
それから二日後、ようやく國枝は入部届を持ってきたという。




