二回、遊びの野球
入学式から一週間後。
新入生の部活動入部シーズンが始まった。
一年生はここから一週間放課後に各部活動を見学し、入部届を提出するというシステムだ。
そのためどの部活も必死に良い人材を獲得しようと勧誘を続けていた。
放課後、新しくできた友達と別れ、真っ先にグラウンドに向かう。
野球部はもう練習を始めていた。
時間から考えるとどうやらランニングなどのアップはすっ飛ばしているらしい。
練習メニューから素人感丸出しじゃねえかよ。
俺はあきれながらも、とりあえず木陰のベンチに腰掛け見学していた。
バックネットはあって(一応安全の為、というかキャッチャーがよく後ろに逸らすので)右翼の奥に校舎、左翼の奥には左から小山、部室棟、武道場と並んでいる。
しかしグラウンドは最悪といっていいほどの荒れようだった。
どこまで手抜きなんだ、このチームは。
まぁいいか、目的はそこじゃないし。
しばらく見ていると、レフトの芝あたりからキャッチボールを終えた上級生何人かが帰ってきた
「お、見学者その3やん!」
「君、名前何ていうの?く…にえだ君?」
「ポジションはどこ?え、センター?マジかよー、俺今年は補欠じゃん。」
「おいおい藪、俺達はベンチで頑張ろうぜ。」
なんかいっぺんに話しかけられて少し困ってしまったが、とりあえず愛想笑いを浮かべた。
とてもおちゃらけた感じの人達で、この雰囲気だと自分がやりたい野球が十分やれそうだった。
遊びの野球。
散々野球で苦しんできた自分にとって、ここでやらんとする野球はその傷の慰めに過ぎない。
「野球は楽しめ」という昔のコーチの言葉がふと頭をよぎる。
やはり野球は楽しいものなのだろう。
もっとも、今更もう一度頑張ろうなんて気もしなかった。
先輩たちがどこかへ行き愛想笑いにも若干疲れ、ふとバックネットの方を見るといつの間にか制服姿の二人組が素手でキャッチボールをしていた。
二人とも新入生のようで、時折変化球やウインドミルを混ぜたりして遊んでいた。
驚いたことにその動きはとても機敏で、どう見ても上級生たちより上手い。
こんなチームにあんな奴が見学に来るもんなのか。
「全くいい加減にしろよ、ホントに。」
しばらくその様子を見ていると、後ろからさっきとは違う先輩二人が少し苛立った様子で話していた。
「河野先輩の弟だか知らねぇけどさ、アイツちょっと調子乗りすぎだろ。」
「見学なんやけおとなしく見学しとけや。」
聞いているとどうやら二人はキャッチボールしているうちの大柄な方の話をしているらしい。
そいつは様々な球を投げたり背面捕りをしたりなどして、遊びに夢中していた。
よく聴いてみると周りの上級生に対してもタメ口を利くなどしている。
まあ確かに先輩からみたらあれは目に余るだろう。
「嫌な奴だな……」
それがこの後俺の運命を大きく変えることになる河野の第一印象だった。




