一回、諦めた野球
あの試合から四ヶ月、中学受験も終え難関中学へ進学することになった國枝。
野球にも嫌気が差し、中学では他の部活に入るよう勧められたのだが……
2008年、春。
晴天で、桜の花が降り注ぎとても幻想的な雰囲気の中、新しい制服に身を包み、入学式へと向かう。
大きめの体育館の中、ずらっと並べられた椅子に緊張からそわそわしながら座った。
なんせ伝統にうるさいと評判の学校なので、式も厳格だった。
周りにいる新入生はみんな大きめの制服のせいなのか、体育館内の独特の雰囲気からか小柄に見える。
しかし少なくとも160cm以上ある自分は見たところクラスでも2、3番目ぐらいに大きいようだ。
それにしてもみんな個性的な雰囲気を醸し出しているのが見て取れる。
この中に色んな奴がいるんだろうな……
勉強ができる奴(みんなそうか。)、運動が得意な奴、人それぞれ………
俺は……どんなものを持っているのだろうか。
そんな事を考えているうち、式はちゃくちゃくと進んでいった。
式が終わり、自分の新しいクラスである教室の席に座り、HRの担任の挨拶を聞き流しながら外を見る。
そこからは桜の樹で囲まれたグラウンドの一部が見え、部室棟らしき建物も見えた。
部活か…
この学校で一般に強いとされているのは、陸上部、バスケ部、サッカー部。
この中学校のOBである姉からは強く陸上部入りを勧められた。
確かに運動神経が良いとはよく言われ、自分に向いていると思ったが、興味もそんなに無かった。
先程の入学記念のクラス写真撮影の際には女子バスケ部の先輩にも背が高いからと熱烈に勧誘(もちろん男子バスケ部に)されたが、入る気はあまり無かった。
もう入る部活をある程度決めていたからだ。
もしかしたらここで言うとおりに陸上部、もしくはバスケ部に入っていたら俺の未来は違ったのかもしれない。
しかし、今となってはこれが正しい判断だと思う。
担任の少し、というかボールと見間違うほど太った女の教師が号令をかける声で我に返る。
礼を済ませると、急いで教室を後にし靴を履き替え真っ先にとある部の部室の方へ走って向かった。
まだ誰もいないその部室は、汗というより制汗剤や古いコンクリートの臭いでむせ返りそうだ。
道具が散乱しており、エアーガンの梱包箱や漫画などもあちこちにあった。
俺は部室隣にあった倉庫に行き、備品の中からひとつボールを取り出し、握り方を変えながら感触を確かめた。
以前使用していたものより一回り大きい白球。
この倉庫の持ち主である野球部は「一回試合に勝つと踊りだす」と姉に揶揄されるほど弱いと言われていた。
「弱小野球部か………練習もほとんどないんだろうな。」
白球を上に投げたりしながらボソッと呟く。
ニヤリと笑みを浮かべ、ボールを倉庫内のゴミ袋に捨ててから俺は部室を後にした。




