整列。 背番号8のトラウマ
小4で地元の古豪野球チームに入団し、ちゃくちゃくと上達していった主人公。しかし、わずか一年ほどで原因不明の打撃不振に陥り、長くスタメン落ちとなる。久しぶりのスタメンでチームの為に全力を尽くす事を誓うのだが……
2007年、秋。
少年野球区長杯4回戦。
一点ビハインドで迎えた最終回無死満塁のチャンス。
勝てばベスト4という重要な試合。
そんな大事な局面に俺はバッターボックスに立っていた。
打席から外れてサインを見た。
監督が少し考えた素振りを見せてからサインを出す。
ベンチからの指示は、スクイズ。
カウントは2-2。
チャンスはこの一回。
思えばスランプに陥り長く経つ。
打率も一割そこそこで、ヒットといっても足で稼いだボテボテの内野安打のみ。
最後に内野を抜いたのはいつだろうか…
そんな俺を、監督は今日スタメンに任せてくれたのだ。
「お前ならできるだろう?」
試合前に監督に呼び出され、こんな言葉をかけられた。
監督は自分に期待してくれているのか。なら…
期待に応えろ、期待に応えるんだ……
打てないんなら、せめて当てるぐらい…………
打席に立ち、構える。
声援や罵声などは耳に入ってこなかった。
心臓の高鳴りだけが耳をつく。
ピッチャーのゆっくりとしたモーションと同時にランナーが走り出した。
オレも素早くバントの構えに切り替え、ピッチャーをしっかりと見据えた。
いける!
そう思った。
しかし、高々と足を上げるマウンド上のその顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
………笑っている?なぜ?
余裕の表情のピッチャーの手から放たれた直球は、ベースの遥か向こうに向かっていた。
読まれた…
飛びつこうが届くような球じゃなかった。
でも、これが最後のチャンスなんだ……
しくじってたまるか!
精一杯ボールに向かって飛んだ。
シクジッテタマルカヨ………
キタイニコタエナキャ…………
バン。
剛速球は無残にも豪快な音を立ててキャッチャーのミットに納まった。
三振、一死。
オレは地面に頭から落ちながら、三塁の方向を見る。
そこに映ったのは、普段よく声をかけてくれていた後輩が刺される場面だった。
二死。
最後まで見届けると、バットを拾い、オレはいつものように下を向いてベンチへと帰っていった。
打席に向かう次の打者の励ましなんか、耳に入らなかった。
なんで………なんでいつも…………
大粒の涙を流しながら、ベンチの隅の方で嗚咽を漏らしながら立ち尽くす。
チームメイトも見てみぬフリをして、声援を送り続けていた。
「どうせ誰にも必要とされていないのなら…………」
「どうせ誰の期待にも応えられないなら…………」
「もう野球なんか辞めてやる……………」
バン。
最後の打者のバットが空を切った。
終わった…
涙を拭って整列に向かった。
結果が出ないのなら、才能が無いのなら、期待に応えられないなら……
野球なんてやる資格は無いんだ………………
グラウンドから去る大柄の背番号8の後ろ姿は、とても情けなく、そして小さく見えた。




