2番 外野手 中村淳仁
サード辺りを守備していたジュン(中村淳仁)がホームのほうに走っていく。そして、バットを握ると、小さい体の全身を使って素振りを始めた。
いつものことだが、さっきのフリーバッティングで、フェンスネットまで届く打球はなかった。打たせるために投げていた球でさえ、空振りすることさえある。
ジュンはバッタボックスに入るとバットを構えた。
いつも笑顔でムードメーカーでもあるが、今は険しい顔で目は睨むように俺を向かってきている。
俺は初球から決め球でもあるスライダーを外角ぎりぎりに投げ込んだ。
バットが空を切る。
ジュンは、たださえ短くバットを持っている。当然、外角には届きにくい。それを補おうと、立ち位置を半歩前へと移した。もう、ベースを踏んでいるんじゃないかという感じだ。さらに、小さい体を屈めるようにして、ベース上を小さくしている。
なんとしてでも当ててやる。そんな気迫が伝わってくる。誰よりも。
ジュンがいなければ、俺たちが今、こうして野球をしていることはなかっただろう。
先輩たちが起こした事件の後、2年生と3年生の間に対立があった。大会出場がなくなっていたこともあって、3年生は引退していった。2年生も仲間がしたことの責任からか、それとも次の年も見通しが立たなかったからか、いつしか誰もいなくなっていた。
1年生でさえも次々と辞めていた。
俺たちも辞めるか、そんな雰囲気になっていた。部活からの帰り道、誰かが、「こんなことしてたって意味がない」ともらした。
誰もが同じ気持ちだ。もう辞めるという言葉が続き、「俺もそうすっかな」と口にしていた。
終わり――さみしいけど、しょうがない。
みんな、そんな気持ちだったろう。だけど、ジュンは違っていた。ぼそりと聞こえてきた小さな声は、「俺は辞めない」
下を向いていたジュンは顔を上げると、「やっぱり、好きなんだよね」と言った。そして、どこか照れ臭そうに笑い、「っていうか、やめられるわけないじゃん」
「だよな」
俺の口からは、そんな言葉がでていた。
「ほんとお前ら、どうしようもないな」「誰かひとりくらい、今の状況を冷静に考えられるやついないのかね」「マジでバカばっか」
俺たちは文句を言いながらも笑っていた。ジュンの笑顔につられるように。
俺はボールを握る指を動かす。そして、大きく振りかぶり、腕を投げ下ろした。
シュートボールが胸元をえぐり、ストライクシートに突き刺さる。
ジュンは腰を引くようにして体勢を崩し、バットは空を切っている。
続いて投げた大きなカーブでも、ジュンのバットは空を切った。
その後も、俺は敬意を持って全力で球を投げていく。
力なんて抜けるわけがない。だって、俺は知っているから。ジュンが誰よりも練習していることを。
雨の日なんて、俺たちにとったら休養日のようなものだ。入部当初は校舎内でいろいろトレーニングをやらされていたが、こんな状況になったら、やるわけがない。地道なトレーニングなんて、つまらないし、きついだけだ。とくに1階から屋上までの階段ダッシュなんて最悪。
だけど、ジュンだけは今でもやり続けている。俺たちはなんだかかんだ口実をつけて、さぼっているのに。
家に帰っても、毎日素振りをしているのを知っている。
ジュンは言っていた――「3振ばっかだけど、対決って楽しよな」
だからこそ、今日も思いっ切り腕を振る。
ジュンは唇を噛み締め、バットを置いた。そして、グローブを手にすると守備へと向かっていった。
さあ、次だ。次は筋肉バカか。




