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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
中岡勝太編
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47/58

2番 外野手 中村淳仁

 サード辺りを守備していたジュン(中村淳仁)がホームのほうに走っていく。そして、バットを握ると、小さい体の全身を使って素振りを始めた。


 いつものことだが、さっきのフリーバッティングで、フェンスネットまで届く打球はなかった。打たせるために投げていた球でさえ、空振りすることさえある。


 ジュンはバッタボックスに入るとバットを構えた。


 いつも笑顔でムードメーカーでもあるが、今は険しい顔で目は睨むように俺を向かってきている。


 俺は初球から決め球でもあるスライダーを外角ぎりぎりに投げ込んだ。


 バットが空を切る。


 ジュンは、たださえ短くバットを持っている。当然、外角には届きにくい。それを補おうと、立ち位置を半歩前へと移した。もう、ベースを踏んでいるんじゃないかという感じだ。さらに、小さい体を屈めるようにして、ベース上を小さくしている。


 なんとしてでも当ててやる。そんな気迫が伝わってくる。誰よりも。




 ジュンがいなければ、俺たちが今、こうして野球をしていることはなかっただろう。


 先輩たちが起こした事件の後、2年生と3年生の間に対立があった。大会出場がなくなっていたこともあって、3年生は引退していった。2年生も仲間がしたことの責任からか、それとも次の年も見通しが立たなかったからか、いつしか誰もいなくなっていた。

 1年生でさえも次々と辞めていた。


 俺たちも辞めるか、そんな雰囲気になっていた。部活からの帰り道、誰かが、「こんなことしてたって意味がない」ともらした。

 誰もが同じ気持ちだ。もう辞めるという言葉が続き、「俺もそうすっかな」と口にしていた。


 終わり――さみしいけど、しょうがない。


 みんな、そんな気持ちだったろう。だけど、ジュンは違っていた。ぼそりと聞こえてきた小さな声は、「俺は辞めない」


 下を向いていたジュンは顔を上げると、「やっぱり、好きなんだよね」と言った。そして、どこか照れ臭そうに笑い、「っていうか、やめられるわけないじゃん」

「だよな」

 俺の口からは、そんな言葉がでていた。

「ほんとお前ら、どうしようもないな」「誰かひとりくらい、今の状況を冷静に考えられるやついないのかね」「マジでバカばっか」


 俺たちは文句を言いながらも笑っていた。ジュンの笑顔につられるように。




 俺はボールを握る指を動かす。そして、大きく振りかぶり、腕を投げ下ろした。


 シュートボールが胸元をえぐり、ストライクシートに突き刺さる。

 ジュンは腰を引くようにして体勢を崩し、バットは空を切っている。

 続いて投げた大きなカーブでも、ジュンのバットは空を切った。


 その後も、俺は敬意を持って全力で球を投げていく。

 力なんて抜けるわけがない。だって、俺は知っているから。ジュンが誰よりも練習していることを。



 雨の日なんて、俺たちにとったら休養日のようなものだ。入部当初は校舎内でいろいろトレーニングをやらされていたが、こんな状況になったら、やるわけがない。地道なトレーニングなんて、つまらないし、きついだけだ。とくに1階から屋上までの階段ダッシュなんて最悪。


 だけど、ジュンだけは今でもやり続けている。俺たちはなんだかかんだ口実をつけて、さぼっているのに。


 家に帰っても、毎日素振りをしているのを知っている。

 ジュンは言っていた――「3振ばっかだけど、対決って楽しよな」


 だからこそ、今日も思いっ切り腕を振る。


 ジュンは唇を噛み締め、バットを置いた。そして、グローブを手にすると守備へと向かっていった。




 さあ、次だ。次は筋肉バカか。


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