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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
中岡勝太編
41/58

遡ること~小学6年生・4

 次の日、ママはさっそく新しい勤め先である美容院へとでかけていった。じいちゃんとばあちゃんは店があるし、僕は街の散策でもしてみることにした。


 商店街は午前中から、けっこう賑わっている。パン屋やお惣菜店に人が集まっているようだ。ワークショップ店は午後からなのだろうか。まだ、シャッターが閉まっている。

 池田洋品店は、ガラスドア越しにユイのお父さんが見えた。昨日の話だと、お兄さんはクリーニングをしているということだったが、配達にでも行っているのかもしれない。引っ越しの時、見かけたバイクが見当たらない。


 昨日、少し酔っぱらったユイのお父さんが、「亮のおかげで、商店街に灯がともったんだ」と嬉しそうに語っていた。


 まさに、僕も見たあのボクシングで、何かが変わったのだろう。


 からあげ屋の前も、人が集まっている。それも納得。昨日は僕とユイだけでも、何個食べたことだろう。




 とりあえず、足は駅と向かっていた。昨日、自治会館での話題の中で、立見総合公園というのがちょくちょくでてきていた。それが、駅の反対側にあるらしい。


 階段を上がり、西口のほうに下りてみると、景色がずいぶん違っていた。大きな通りがあり、スーパーやドラッグストアー、家電量販店などが並んでいる。


 駅前にある地図看板を見てみると、この通りを歩いて行けば、総合公園があるようだ。大きな公園みたいなので、行ってみれば、すぐにわかりそうだ。






 本当に広い公園だ。

 池を中心にいろいろある。そして、すぐに感じていた。桜が多い。満開には少し早いが、それでも咲き始めているし綺麗だ。

 ユイが自慢げに、さくら祭りのことを話していたが、これは本当に盛り上がりそうだ。


 自然と足取りも弾んでくる。


 でも、その足は力が抜けるように止まっていた。


 耳にはいくつもの声が届いている。目にはグランドが映っている。僕と同い年くらいのユニフォームを着た子供たちとともに。


 気付けば、上着のポケットにあるボールを握りしめていた。


 前に住んでいたところには川があり、その橋の下で、壁当てができるところがあった。そこなら、ママやパパに見られることなく、ボールを投げることができていた。


 ここにいると胸が苦しくなる。辛くなる――野球は……ダメなんだ。


 僕は背を向けて歩いた。歩が速まる。そして、走るように公園も後にしていた。





 なんだろ?


 いろんなことを考えてしまうから、頭を真っ白にしようとして歩いていたら、いつの間にか、住宅街を抜けてしまっていたようだ。

 でも、振り返れば住宅街だし、遠くに来てしまったわけではなさそうだ。つまりは住宅街の外れということだろう。


 前へと視線を戻せば、大きな木々がある。林? 山? 元々は住宅街も公園も全部がこんなんだったかもしれない。


 周りを見渡していると、なにやら大きな石が目に止まった。近づいてみると、僕の背くらいある石柱?

 そこに難しい字が彫り込まれている。読めないが、なんとか寺とある。


 ってことは、木々の間にある急坂を上がっていけば、お寺があるということだろう。車が両方から通れるくらいの道だが、坂の上は見えない。

 なんだか少し怖い気がする。でも、気になる。


 とりあえず、坂の上までだけ行ってみようか。


 恐る恐る足を踏み出した。






 坂を上がり、そこにあった石段も上がると、意外と大きなお寺があった。周りに人の姿はない。

 真ん中にどんとある古い建物が本堂とかいうやつだろう。やり方はよくわからないが、とりあえず手だけ合わせた。


 周りを見渡すと立派な木々の間に小道が見える。なんとなく近づいてみると、見晴らし場、という消えかけた文字の看板があった。

 あれだけの坂と階段を上がってきたということは、いい景色が見られるのかもしれない。


 それに、木々に囲まれた小道を前に冒険心もわいてきている。


 よしっ――行ってみるか。





 木々を向けると綺麗な芝生の広場があった。ちょっとした公園くらいの広さがある。野球はできないけど、球当てくらいなら。


 広場を見渡したが、そんなに都合よく、ちょうどいい壁なんてあるもんじゃない。あんなのに当てるわけにもいかないし。


 そう思いながら、そこに近づいていく。


 桜? それにしては小さい。でも、ストライプみたいな縞の幹ってことは桜だろう。小学校に桜があって、先生が幹に特徴があると教えてくれたから間違いない。


 さっき公園で立派なのを見たから、余計に小さく見える。

 猛ダッシュからの手伸ばし全力ジャンプしたら、テッペンに触れられそうな気がする。さすがに、それは無理だけど。


 よく見れば、数輪だけ花が開いている。まだ早いのか。でも、つぼみもそれほどの数でもないし、満開になっても、木を覆うような桜にはならなそうだ。


 たいしたことないのに、なんだか引き付けられる。たった数輪の花なのに……。


 自然と、手はボールへと向かい、掴んだその手を見つめていた。


 公園で野球をしていた子たちは、あそこにあったたくさんの大きな桜と一緒だ。

 橋の下でひとり隠れるようにしていた僕と、こんなところに一本だけでいるこいつが同じに思えてくる。

 でも……。


 こいつは咲いている。咲き誇ろうとしている。ちゃんと……。



 青く晴れ渡る空に向かって、手にしているボールを投げつけた。

 ボールが突き進むように空へと向かっていく。


 でも……。


 僕の思いと同じように力を失っていた。

 大きく弧を描いたボールは、小道の手前に転がっている。

 どうしようもできない僕のように止まっている。




 そんなボールが動いた。

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