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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
中岡勝太編
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40/58

遡ること~小学6年生・3

 小学校の卒業式の後、ママと僕はこの商店街に引っ越してきた。


 じいちゃんは、すぐにでも来なさい、と言っていたが、ママが僕のために、卒業までがんばってくれていた。


 引っ越しの日、どこか緊張していた。幼稚園生くらいまでは、よく遊びに来ていたらしいが、パパがあーなってからは来たことがない。だから、商店街を見ても記憶になかった。

 でも、じいちゃんたちとは、小学生になってからも、旅行とかには行っていたし大丈夫。自分にそう言い聞かせた。




 トラックが靴店の前につくと、次々と人が集まってきて、どんどん荷物が運び出されていく。先頭に立っているのは、熊のように大きな体をした人だ。

 よろしくな、とにこやかな顔で僕の肩を叩くと、ママと話しながら、大声で指示を飛ばしている。


 その体と顔で、誰なのか、すぐにわかった。テレビで見た人だ。去年、ボクシングの中継で、試合の後、トランペットを吹いていた人だ。


 段ボールを運んでくれている女の人も、リングにいた人だ。あっ、あれはボクサーの永井選手だ。


 ママがテレビを見ながら、みんな立派になって、と目を潤ませていたのを覚えている。


「ねえ、ぼーっと立ってないで、これ運ぶからそっち持ってよ」


 僕と同じくらいだろうか。頭にねじり鉢巻きをした女の子が、段ボールを指差しながら声をかけてきた。

 その勢いに押されるように、言われるがままに彼女の反対側に手をかけ持ち上げた。

 すぐに声が飛んでくる。


「これ、どこに運ぶ?」


 そう、これは僕の家の引っ越しだ。手伝いに来たわけじゃない。段ボールを見ると、勝太、とある。

 確か、2階の奥の部屋が僕の部屋になると言っていたから、階段のところに置いておいてもらおう。

 それを伝えると、OK、と弾んだ声が返ってきた。




 運び込みの作業は、あっという間に終わった。

 もともと、ベッドや家具などの大きな物は引っ越しの前にほとんど処分していた。僕の物も、クローゼットの奥にしまわれていた小さい頃に遊んだおもちゃなどを処分してきていた。でも、おもちゃで隠すようにしていたそれは捨てることができなかった。


 ――硬式ボール。

 使いこんで、すっかり汚れてしまっている。まだまだ小さい僕の手にもしっかり馴染んでいる。それをぐっと握りしめ、そして、段ボールの奥に押し込んでいた。



 作業が終わると、「じゃあ、みなさん自治会館で」

 そんな声が聞こえ、みんなが動き始めた。そんな姿を見つめる僕の肩が叩けれ、「行こっ!」

 女の子がにこやかに歩き始めた。その笑顔に引き寄せられるように、僕も歩を進めた。


 一歩前を歩く彼女は、「めっちゃおいしい、からあげがあるんだよ」

 時より振り返る顔は楽し気で、足は弾んでいる。



 自治会館で僕らの歓迎会をしてくれて、自己紹介もあり、女の子の名が池田ユイであることを知った。

 僕らがじいちゃんの家に遊び来た時、一緒に遊んだんだよ、と言っていたが、彼女はその後すぐに、幼稚園の頃だし覚えてないけどね、と笑っていた。



 大人たちがビールを飲む姿に、胸が少しきゅっとした。パパとは違って楽し気に飲む姿に。

 ママのコップにもビールがあるが、ほとんど減っていない。



 それでも温かな雰囲気に、ほっとする自分もいた。


 大丈夫――心の中で自分に言い聞かせた言葉が、さっきより大きく広がった。


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