表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
中岡勝太編
39/58

高校3年の今

「ちょっと、走ってくる」


 台所で夕食の準備をしてくれているばあちゃんに声をかけ、店からでる時にじいちゃんにも声をかけた。


 毎日朝か晩の時間のある時、走るのが習慣になっている。中学で野球部に入ってからだから、もう5年くらいになる。

ふと、彼の声が蘇ってくる。


――野球でもなんでも、やっぱ足腰が大事だぞ。


 言われた時には生返事をしてしまったが、永井亮というそのボクサーはその姿でも、言葉を伝えてくれていた。

 毎朝走る姿。ジムの窓越しに見える姿。

 俺の体は自然と走るようになっていた。

 走っていると、ロードワークをしているあの人と会うこともあった。


 今でも走りながら、ふと振り返ってしまうことがある。でも、微かに手を上げてくれるあの人に会うことは、もうないのかもしれない。




 店の外にでると、自然と視線が明るいほうへと向かう。


 もう、ほとんどの店は閉まっているが、喫茶店の看板は、さっきと違って明りがともっている。

 そこは、ユイの父親が切り盛りしている。といっても、雇われマスターで、オーナーはボクシングジムの孫娘だった木下奈津子さんだ。


 ユイも時間があれば、手伝いにいっているはずだから、店のほうへと歩を進め、窓越しに中を覗いてみた。

 

 楽しそうに、からあげ屋ナガイの奥さんと話している。

 普段はこんなふうに楽し気に接客しているが、時より悲しそうに店を見つめていることがある。

 なぜなのか。それは分かっている。


 あの人がいてくれていたなら、今でもボクシングジムだったろうし、商店街だって――


 向きを変えて足を踏み出した。


 一時は多くの店舗で埋まったが、今は昔からある店だけが残っている。といっても、からあげ店と文具店、それとじいちゃんの靴店だけだ。


 ふと目に止まるシャッターの文字――池田洋品店。


 昔からある店だが、このシャッターが開くことはもうない。いや、池田淳史、彼が帰ってくれば……。俺に再び野球を与えてくれたあの人が……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ