15.幸福の意味
そこは異質…と言っても過言ではなかった。
異質という表現は適切ではないかもしれないが、周りの環境との差が大きすぎるあまり、異質に感じられた。
そこは幸福の世、フェリチータの中心部。
ショウとリツは3日間ジュネーロの元で学んだ後、今日はカンナーレに連れられ、フェリチータへ訪れていた。
フェリチータは緑溢れる豊かな場所だ。
陽光が降り注ぎ、花々は咲き乱れ、木々は生い茂り、空気は澄み渡り、そして魂たちの笑い声が響いていた。
しかし中心部には同じフェリチータとは思えないほど科学技術が発達した都市があった。
様々な建物がチューブのようなもので繋がれ、魂たちはそれを使い、移動をしている。
車のようなものが空を飛び交う。
都市はネオンサインで光っていた。
生を受けた者の世よりもはるかに発達した科学技術が都市には溢れかえっていた。
そんな都市を前に、ショウとリツは呆気にとられていた。
「わぁぁ…カラフル…ですね~?」
「な、なんですか、ここは?ほんとにフェリチータなんですか…?」
戸惑う2人に、カンナーレが申し訳なさそうに微笑んだ。
「何も言わずに連れて来てごめんなさいね?
説明だけするより、実際に見ながら話した方がわかりやすいと思ったんです。
ここは、ヴェリータと呼ばれる都市。
1部の魂たちが、科学技術の発展こそが本当の幸福だと考えてこの都市を作り、ヴェリータ《真実》と名付けました。」
「…?都市を、作ったって、そんなんことが魂にできるのですか~?すごいですね~?」
カンナーレの言葉を聞き、リツが不思議そうに尋ねた。
「それを説明するよりも前に、フェリチータのシステムを先に説明しますね?
フェリチータは生前、良い行いをした魂が行き着く場所であり、魂が疲れを癒し、生まれ変わりの準備をする場所なのです。
その魂が望むものが与えられ、その魂が望む時に生まれ変わることができます。
実はフェリチータにも労働があるのです。
ですがそれは義務ではなく、また労働は魂たちにとっては苦ではないのです。
その魂がやりたいことがそのまま仕事になるのですから。」
「例えば…歌が好きな人は歌を歌うことが仕事になる…ってことですか?」
ショウの言葉にカンナーレがにっこりと笑い、頷いた。
「ええ!そういうことです。
与えるだけでは人の魂というのはだめになってしまうのです。
労働をする義務はありません。ですから、労働をしない者も中にはいます。
しかしほとんどの魂はきちんと働き、望むものを手に入れています。
…ヴェリータができたのはここ数年の出来事なんです。
科学技術の発展を望む魂がそれを仕事にし、望むものを手に入れ、様々な苦労を重ね、ヴェリータは出来上がりました。
これは…とてもすごいことです。」
そう語るカンナーレの目はどこか悲しげで、喜んでいるようには見えなかった。
カンナーレは高くそびえるビルを見上げ、ため息をついた。
「…より便利に。それを突き進めた結果がヴェリータなのです。
フェリチータは生を受けた者の世とは違い、科学技術の発展により環境に悪影響がもたらされることはありません。
ですがやはり反対派も多数存在します。
…それに私は科学技術ばかり求めるのは如何なものかと思うのです…」
「そう…ですよね…科学技術の発展で何か他に悪影響があるのですか?」
悲しげな目をしているカンナーレを気遣いながらショウが問いかけた。
「…はい。ヴェリータの科学技術は生を受けた者の世よりもはるかに優れています。
ヴェリータ内の者の中にはそれを理由に生まれ変わりを拒否する者もいるのです。
…私たちの仕事は魂の循環を止めることなく進めるものです。
生まれ変わりの拒否などは本来あってはならないことなのです。私は彼らと何度も話し合い説得を続けています。
それに…ただ単順に、こんなにも綺麗な自然に見向きもしない魂がいることがとても…悲しいんです。」
カンナーレは賑わうヴェリータに背を向けた。
「ショウくん、リツさん。あなたたちの幸せって…なんですか…?」
「幸せ…ですか~?
私は大切な仲間と一緒に笑っていられること、ですかね~?」
カンナーレの問いに対し、リツはキラキラとした笑顔で答えた。
「僕…僕は…兄…と一緒に…心の底から笑いあえるようになれれば…それが…僕の幸せです…」
ショウの目は目の前の景色を通り越し、どこか遠くを見つめていた。
「どちらも素敵なことだと思います。
人の数だけ、魂の数だけ幸せはあってもいいと思うんです。
フェリチータ《幸福の世》…本当にフェリチータは幸福の世と言えるのでしょうか…
幸福の意味なんて………」
少し強い風が吹き、カンナーレの言葉の最後をかき消してしまった。
ショウとリツはカンナーレの悲しげな表情を見て聞き返すことはできなかった。
日が沈み、星が輝き始める。
夜になればなるほど光を増すヴェリータは星の輝きさえも奪っていた。
そんな空を見ながら3人はしばらく物思いにふけっていた。




