異世界生活始まりの「眠り」
「いらっしゃい」
病院の前に仁王立ちしていたのは、白衣を着た女性。
「あの予約もせずに朝早くから申し訳ありません、今から診察して頂けませんか?」
家主が丁寧な口調で真剣に話した。
「...まだ診察時間じゃないけどまぁいいわ。弱ってるわね、貸してちょうだい。貴方達こっちに」
茶髪の無造作なロングヘアに、タイトな黒のワンピースと白衣を身に纏った医者は慣れた手つきで子猫を抱く。そのまま白衣を翻して病院内へ入っていった。
「家主さん」
「大丈夫だよ、とりあえず僕らも入ろうか」
「...はい」
幼女は家主にぴたっと寄り添いながら、二人は病院へ入る。
「わ、すごい......」
幼女は辺りをキョロキョロと物珍しそうに見渡す。白を基調としたシンプルなデザインで、床は白黒のタイルが敷かれており、椅子は白の1人掛けソファが一つ二つ三つ四つ。そして壁には猫や犬がデザインされたポスターなどが貼られている。
そしてカツカツとハイヒールを響かせて、医者が診察室から出てきた。
「あの子猫体温は回復しているわ、今応急処置をしているけれど、怪我もないし空腹でもないみたいだし状態は酷くない、病気への感染もないわ」
「今の一瞬でそこまで分かるんですか?」
幼女は丁寧な口調の医者の言葉にほっとしたが、家主は不思議そうにそう尋ねた。
「ええ勿論。外の看板見なかったの?ここはただの動物病院ではなく、魔術を使って動物達の治療をする病院」
「では私は治療に戻るわ。診察中は立ち入り禁止よ、そこに掛けてお待ちになって頂戴」
医者は真面目な顔でそれだけ言うと再びハイヒールをカツカツと響かせ診察室へ戻っていった。
「...家主さん見てなかったんですか?」
「慌てちゃってね。そっか、魔術の治療なら失敗る事さえなければ安心安全だ。あぁ君の体調はどう?」
家主は苦笑いをして、少し疲れた様子の幼女の頭を撫でた。
「ん、平気ですよ?」
「本当?無茶はダメだよ。さぁ座って」
「本当なのに......」
幼女は促されて渋々椅子に座った。
「約束を破らせたのは僕だから、疲れてるでしょ?寝ててもいいよ?」
家主は幼女の頭を自分の肩にもたれかからせた。体が疲れていないはずがない、さっきまで眠っていた魔力を無理やり起こしてかなりの消費をしたというのに。
「...うぅ」
「眠くなってきただろう?」
数分して、先程までぱっちり開いていた目はうとうとと、今にも閉じてしまいそうになっていた。
「ん、んん...」
「寝てていいよ、子猫の事は僕が見てるから。ほらお休み」
家主は追い討ちをかけるように、幼女の頭をゆっくりと撫でる、しばらくして幼女は家主に体を預けて眠ってしまった。
幼女が眠った後も何回もなでなでと頭を撫でる、すると診察室の扉が開いた。
「お待たせ。はい、もう大丈夫よ」
医者の手には、すやすやと気持ちよさそうに眠る子猫が毛布に包まれて抱かれていた。
「ありがとうございます。本当にもう大丈夫なんでしょうか?」
家主は幼女を2人掛けのソファに横にさせて立ち上がる。
「えぇとりあえずは健康よ。少し脱水症状が見られたから点滴を魔術で打たせてもらったわ。あとワクチンも。性別はメスね、生後二ヶ月ほどよ」
「そうですか...本当にありがとうございます」
医者はすやすやと眠る子猫を家主に手渡した。
「それとその子拾った子よね。貴方達が飼うのかしら?」
「いや、今の所飼う予定は...」
「じゃあ、無責任に助けたって事かしら?母猫は?」
深い青と黒が入り混じったような女医の目が、家主の目を見つめる。
「いえ、決してそんなつもりは。母猫はまだ探せてません」
家主は柔らかく微笑み、自分の腕の中で眠る子猫を見つめた。
「そう、それなら構わないけど。助けて元気になったらポイって捨てるなんて事は絶対にやめてちょうだいね」
「助けるだけなら善意だろうが悪意だろうが誰でも出来るけど、飼う事は誰にでもは出来ないわ」
女医は冷厳なオーラと真剣な表情で言い放った。
「ーーー勿論分かっています。この子も一緒に住んでいるので僕1人では決められませんが、飼う事が出来ない場合は里親を探しますよ」
「そう?じゃあ診察代と治療代をお願いね。あと飼うならこれを熟読して」
医者は家主に一冊のぶ厚めの冊子を手渡した。





