異世界生活始まりの「黒猫」
「みー」
「わ、ちっちゃい...」
か細い鳴き声に幼女は思わず声をもらした、そして少しだけ触れてみる。
「もうかなり弱ってるな」
暖かい毛布と日差しに包まれてるのに、子猫の体は冷たいままだった。
「この子どうしたんですか?」
「あぁ、気づいたら家の中にいてそれしか分からない。母猫はまだ探せてないけど、とりあえず動物病院に連れて行きたいから魔力を貸して欲しい」
「家主さん、この子猫飼うんですか?」
「君が飼いたいなら責任持って飼えばいいし、飼わないなら里親探すよ」
「...わかりました。病院の場所どこですか?」
「えっと、ここから8キロ離れた...」
8キロという言葉に幼女はぎょっとした、8キロは歩けばまぁ二時間ほど、だけどそれを魔力の消費量に置き換えると体の半分ぐらいは魔力を持って行かれる。
「...大丈夫だよ、2キロぐらいなら僕の魔力で補えるはずだから」
家主はそう言って不安そうな幼女の頭を撫でたが、家主は頑張って1キロぐらいの魔力しか出せない事を幼女は分かっていた。
「こんな時まで意地張らないでください。私が魔力全部だしますから」
「ううん、僕は大丈夫。ちょっとぐらいは君の負担を無くしたいから」
微笑む家主から幼女は何となく目を逸らした、家主は苦笑いして子猫を抱きしめる。幼女は、家主の側に立って呪文を唱え始める。
「よし、行こうか。...大丈夫かい?」
「大丈夫です、頑張りますから」
ーーー家主さんが居なくなったら、何処かに預けられたとしても私は一人に変わりはない。
だから大丈夫。大丈夫にならなくちゃ。
もうあのペンダントは必要ない、それぐらいは当たり前だけど、家主さんにとってあのペンダントには大切な記憶が入ってるから、だからもう使えない。
魔術を使う事自体は何度も体験してるのにどうしてか感覚だけは慣れない。少しするとゾクゾクするような、駆け上がってくる何かに追い詰められるような、どうにかなるんじゃないかと心配になるのに、すぐに落ち着いたり。
そういえば、魔力は生きてると家主さんは言った。
魔力生きてるって何なのかよく分からなくて、その時はへぇ、って何となく頷いてた。今でもよく分からない、本で調べてみたけど魔力が生きてるなんて何処にも書かれてなかったし。
「みゃー」
「ひゃっ!!」
柔らかい感触が鼻にしたて思わず目を開けると、幼女の鼻に肉球が押し付けられていた。
「ははっ、もう着いたよ。ビックリしたかい?」
「...び、ビックリしました」
幼女はバクバクと動く心臓に手を当てる。家主は子猫の小さな手を握り、幼女の鼻に押し付けていたのだ。
子猫は毛布に包まれながら、もぞもぞと家主の腕の中で動いている。
「それにしても、のどかな所ですね」
辺りを見回すと、貴族の人達や裕福な人達が行き交う王都とはまた違って、どこか落ち着くような場所だった。見渡すと、周りは木造の家やレンガ造りの大きな建物なんかもある。
そしてあっちやこっちから、お店の人の声や子供達が遊ぶ賑やかな声が聞こえる。
「わぁ、すごい..,」
小さな村?町?なのに、すごく賑やかで楽しそうで、幼女の気持ちは昂ぶりはじめる。
「気持ちはわかるけど、今は急ごうか」
「あ、はい!」
家主に促されて、家主の後を小走りでついていった。少し歩き、あまり人がいない場所に静かに佇む動物病院があった。





