異世界生活始まりの「忙しない朝」
朝の目覚めは早かった、5時にはもう支度をして朝食の支度をする。あの子は朝から結構食べるからいつも量は多めで、デザートがあると本人はあまり顔に出してないと思ってるんだろうけど、どこか機嫌がいい。
そしてあの子は料理がかなり苦手。少し前に包丁を一度持たせてみたけど、野菜は切れず指を軽く切るだけで終わってしまった。その後何度か挑戦させたけど、何かを切るだけで精一杯だった。
もう少し前から色々やらせておけばよかったなと、少し後悔した。
皿洗い、洗濯、掃除は丁寧に出来るから心配はない。ただちょっと鈍臭い所があって雑巾を干し忘れたり、皿洗いはたまにお皿を割ってしまったりする。
そんな事をゆらゆらとスッキリしない頭の中で考えていた。
「あぁ、夢か」
横になりながら、カーテンの隙間から差し込む太陽の眩しさに目を瞑った。
「またルナを叱っておかないと」
目覚まし時計確認すると午前6時、少し遅い。と焦って体を起こした。クローゼットからいつものワイシャツにズボンを取り出す、あまり気にした事もなかったけど最近髪が伸びるのが早くなった気がする、あと筋肉が絶望的にないこと。
黒のカーディガンに袖を通して、部屋を出た。隣のあの子の部屋をトントンとノックするが、反応はないのでどうやらまだ寝てるらしい。
いつも通りの朝にする為に、今日も花に水をやってハーブを摘んで部屋中をいつも通りの香りで満たしていく。
「今日は何を作ろうかな。クロワッサンとあとは」
気分良く朝食を作っていたら、足元に黒い影が横切った。
「っ!ーーー何が...虫?」
虫はハッキリ言ってあまり好きじゃない、どうしてあんなに足があるのか理解できない。辺りをキョロキョロと見ていると冷蔵庫の下に黒いもふもふとした何かが潜り込んでるのが見えた。お尻らしき部分だけ出して頭だけは潜って見えない。
「はぁ、朝から最悪だな。殺虫剤あったっけ...」
近くにあった乾いた雑巾を手に取る、冷蔵庫にそーっと近づいた。...でも虫ってあんなに黒い毛があっただろうか、もしかしたら新種かもしれない。
「おーい、おーいってば、出てこーい」
お尻だけ鷲掴みにしようかと思ったけど、もし虫ならそんな事できない。というか近くで見るとやたらと大きいし、凄い毛がふわっふわだしお尻に...尻尾?
僕は雑巾を床に置いて、そのふわふわに手を伸ばして体ごと持ち上げて冷蔵庫の下から引き抜いた。
「...わ、すごいふわふわ、綿飴並みだなぁ。ははっ」
「ミャー」
「ちゃんと玄関の鍵は閉めてたのに、一体どこから入り込んだのかな?」
黒いふわふわの生き物には、くりっとした黄色い目がついてあった、体はちょうど僕の片手で収まるサイズ。お尻には短い尻尾がちょこんとついている。
「ミャーミャー」
「お母さんはどうしたんだい?」
黒い子猫を抱っこして語りかけた、お腹の部分はまだ毛が薄く白い皮膚が見えている、そして手足をバタバタさせ反抗してくる。
「みゃー」
「ん、どうしたんだい?お腹が空いたのかな...寒いのかい?」
動物病院は確かここからかなり離れてる、今から魔術で移動するにしてはかなり遠い、遠い分魔力の消費量も大きいし、ポンコツな僕だけの魔力じゃ手に負えない。
...あ、あの子に頼めば何とかなるかもしれない。
「ちょっと待ってて」
居間のソファに畳んであった毛布で子猫の体を包んだ、濡れてないけど体が少し冷えてるな。とりあえず子猫を毛布でぐるぐる巻いてソファに寝かせて、あの子の部屋へ駆け上がった。
(動物なんて飼った事ないから困るな、本で見た知識ととりあえず動物病院に行けるなら何とか...)
トントン、と気持ち強めにあの子の部屋の扉をノックする。
「ごめん。起きてるかい?」
「...ふわあぁぁ、何ですか?家主さん」
大きな欠伸をして部屋から出てきた幼女、家主をパッチリとした目で睨みつける。
「そのごめん、昨日の事はまた後で。今はちょっと力を貸して欲しいなって」
「...昨日の事を差し置いてまでですか?」
「ーーーうん、ごめん。ポンコツの僕じゃあちょっと手に負えないから」
家主が力強く頷くと幼女は慣れない腕組みをした。
「...分かりました。で、こんな朝早くに何ですか?」
「その、三年前に起きたばかりの時に魔術は使うなって話をしたけど、どうしてか理由覚えてる?」
「...えっと、体が完全に起きてない状態で魔術を使うと危険だから。間違えて呪文唱えたり、精神集中出来なかったり。体が眠ってる時は体の中の魔力も眠ってるから、起きたてに無理やり魔力を起こして使うと体にすごい負担がかかる、それは魔力の消費量にも寄るけど、あまりにも無理すると死にます」
「素晴らしい回答だね、正解。だから起きたてに魔術は絶対使っちゃダメって僕は君と約束した。そして君は今僕に起こされたばかり。君には、今からその約束を破ってもらいたいんだ」
「...は?」
「話は後、安全は確保するからとにかく来てっ」
「ひゃっ!ちょ、家主さんっ?!」
幼女はパジャマ姿のまま家主に手を引っ張られて、階段を駆け下りる。居間の方へ連れて行かれるとそこには毛布に包まれ、見るからに弱っている子猫がいた。





