異世界生活始まりの「言えない言葉」
「そこ破片あるよ、気をつけて」
「あの、家主さん...」
「あ、そっちにも破片あるね。ちょっと待ってて」
ちりとりと箒でばさばさと、花柄のティーカップのバラバラの破片が集められていく。
「あの、家主さん」
「どうしたんだい?」
にこっとした家主は、幼女の頭を撫でる。
「...私、分からないです」
「どうして?そりゃあいきなりでビックリしたのは分かるけど、話しただろう?いつか来る時が少し早まっただけだよ」
「っ、だからそうじゃなくてっ!」
家主の手が止まった、ちりとりの中の破片を袋に捨てる。
「さっきも言ったけど、ちゃんと僕の代わりを用意してあげるから、君は安心していいよ。寝る場所も食べる物も遊ぶ所今までと同じだ」
「っ...違う、そうじゃない!そうじゃないんですっ」
「話したい事はちゃんと整理してから言ってごらん、ね?」
再び頭を優しく撫でられたが、幼女は苛つきからその手を振り払った。
「ーーー」
「あ...ごっ、ごめんなさ」
「今日はもう寝るといい、夜遅いからね」
一瞬固まった家主だが、そう言い放つとすぐに古いタオルで床を拭き始めた。
「ごめん、なさい」
重みのある言葉を残してバタンと、掃除をしている家主をよそに幼女は部屋へ入った。
部屋へ入ってすぐに引き出しを開け、一枚の写真を取り出した、写真があまり好きではない家主が唯一撮らせてくれた二人の写真。
「確か、夏だっけ。確か家主さんが熱中症で倒れちゃって...」
一度思い出すと記憶がどんどん溢れていく、思い出はずっと胸に残ると言うけれど、本当だった。
『こんなに暑いのに水ぐらい持っていってください!」
『...ちょっと出掛けるだけだし水とか持ってかなくてもいいかな、って思ったんだよ。あー頭がくらくして死にそうだよ、マイヴィーナス〜』
『それがこの結果じゃないですかっ!ほら、大人しく寝ててください!』
『あ、君が一緒に添い寝してくれたら熱も冷めるかもしれない!僕そんな気がするなー』
『...熱中症でその気持ち悪い頭が焼かれたらよかったのに』
『酷いなーでもそういう所もかわいいね。ははっ、やっぱり君と一緒に居たら落ち着くや』
『...私もです』
結局夜まで看病して、朝起きたら拍子抜けするほど元気な家主さんがいた。
「ふふっ、そんな事もあったっけ」
そう、その後にしっかり熱中症対策をして海へ行った時の写真。他にも写真を撮ってもらったりはしたけど、写るのはいつも私一人だった。
だから、これは宝物。
「だからこれからだって、ずっと...」
ううん。ずっととは言えないけど、でも後何年かは一緒のはずだった。明日は何しようとか何処に行こうとか、明日も明後日も考えていられると思った。
物の使い方とか、お金の数え方とか、薬草の見分け方とか、料理教えて貰ったり、どうして雨は降るのとか、どうして空は青いのとか、夜は暗いのとか、色んな事を聞いたらいつも教えてくれて、時には僕にも分からないから一緒に調べようか。って言って沢山の本や実験器具を持ってきたり。
たまに、私が家主さんの面倒見たり。
「いろんな事あったなぁ...」
涙が頬を伝う、言葉にできない感情を全て涙で流してしまいたい。
「っう...うぅ...っ」
噛み締めた言葉が涙に変わってぽたぽたこぼれ落ちていく、床に座ってベッドに顔を埋め、写真をぐしゃりと握りしめた。
(元)天才は人の気持ちが分からない。





