異世界生活基本の「やすらぎ」
「よっこらしょ、っと。出れますか?」
強く叩かれ今にも壊されそうなドアだったが、避難用に作られていた部屋なのか、しぶとくまだ壊れないでいてくれている。
そして今、洞窟内の部屋の後ろに穴を開けた、人が通れるほどの大きさで洞窟を貫通させた、勿論魔術で。洞窟の後ろは木で囲まれている。
でも少し四つん這いで歩けば十分お母さんも赤ちゃんも穴を通れて、外に出る事ができた。
「だ、大丈夫です...」
「あーうっ」
「しーっ、静かになさい」
四つん這いのお母さんが暴れる赤ちゃんを大人しくさせている。そして私はすぐさまランプのガラスの筒を取り、魔術をかけた。
(すぐに燃え移りますように...)
ランプの火がぼわっ、と音をたてて4倍のサイズになった。そしてその玉のような火を魔術で操りながら沢山の草と枯れた木の枝が落ちている辺りへ落とした。
草と木の枝は徐々に燃えはじめた、火花が飛び始める。
「よし、お母さん早くこっちに!」
お母さんを、洞窟の入り口近くの木に隠れるように早歩きで誘導する。後ろからはもう焦げ臭い匂いがした、そろそろ魔術師達も気づく頃だと思う。気づいたら扉を意地でも魔術で壊して、私達が通った穴を通って来るはず。
(入り口には誰もいない、全員で扉を壊しに行ったのかな?それにしてもオークさんの姿がない...)
辺りを見回してもいるはずのオークさんがいない、もし始末されてしまったとしても流石に死体をどうこうする時間はなかったはず、ここら辺に捨てられる川なんてないし...。
まぁいいや、あとで探そう、とにかく今は。
「目を瞑ってくださいっ、赤ちゃんも」
「あう」
木の影に隠れてそう言っても赤ちゃんはぱっちりとした目を瞑ってはくれないので、お母さんが目隠しした。
「今からある所に移動します、私は後から行くのでそこは安全です」
「...分かりました」
目を瞑っているお母さんは冷静だった、でもきっともう胸の中はいっぱいだと思う。
「...ごめんなさい」
私はそう呟いて魔術を唱えた、あと1分か2分、雑にやると変な所へ飛ばしてしまうかもしれない。あくまでも丁寧に。
「......」
あぁ、これで良かったのかな。
「......」
だめ、今は集中。
私は魔力を流し込んだ、地面が発行していく。夜なら目立つけどボヤ騒ぎを起こしたお陰で、あちらの方が目立っていた。
「おい、何だこれ!早く火を消せ!」
「早くしろ、手間取るな!ガキはどこだ?!」
よし思ったよりも早く出来た、大丈夫。
私は1分という最短記録で、(まだ2回目だけど)瞬間移動魔術を成功させた。地面はもう光っておらず、さっきまで居た赤ちゃんとお母さんもいない、上手くいった。
「よし、次っ!」
私はお父さんを探す為、洞窟の辺りを探した。茂みの中、木の陰、魔術師がボヤ騒ぎを消してくれている間にとにかく探す。
「ここにもいない、どこに...」
洞窟周辺も探すが、見つからない。おかしい、戦った跡もない。そうだ、血がない。真っ暗の夜は何も見えないけど、でも血の匂いぐらいならするはず。生臭い匂いとか。
「おい、何やってんだ!水の魔法ぐらい簡単だろうが、どけ俺がやる!」
あっちは何故か手こずってるみたい。
「...あ」
洞窟のちょうど入り口、さっきまで岩だと思っていた黒い影が少しずつ動いていた。私は慌てて駆け寄った、荒いけど息がある。
「あ、だ、大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかけると、酷く掠れて今にも死んでしまいそうな声がかえってきた。
「む、、すめ、は」
「...大丈夫です、今は安全な所に!」
少し腕を掴んだだけでぬるぬるとした感触がする、生臭い匂いも。
「おい、早くガキを探せ!走れ!」
しまった、もう消化が終わった。そう言えばさっきまで見えていた夕陽のような火の色は見えず、煙だけが充満している。
「ごめんなさい、時間がなくて...っ。行きましょう、目を瞑って」
オークさんから返事はなかったが、微かに開いていた目を閉じてくれた。そして大丈夫と言うように、側にあった武器を弱々しく握り腕に力を入れていた。





