異世界生活基本の「昨日の夜」
「ルナ、いい加減離してくれ」
「どうしてお兄ちゃん?別にいいじゃない。子供なんだから好きに遊ばせたら?」
ルナが腕を絡めてしがみついてくる。その手を振り払うが、妹相手に本気で振り払うわけにもいかず軽く振り払ってはしがみつかれ、振り払ってはしがみつかれの繰り返しだった。
そうあの子が家を出た。ルナと雑談をしていて気づいた時には既に遅かった、出かけるなら必ず一言言うあの子が、何も言わずに外へ行くなんてあり得ない。
「そういう問題じゃない、もう日が沈むんだ。もし何かあったら...」
「大丈夫よ、まだ4時よ?過保護すぎるんじゃない?女の子だって家族に黙って一人で遊びたい時ぐらいあると思うけどなぁ」
ルナはにこっと笑っていたが目は笑っていない気がした。僕があの子がいない事に気付いたのは3時、僕が帰って来たのと同じぐらいの時間。それから1時間。
「ルナ、あの子に何かしたか?」
「ちょっ、何言ってるのお兄ちゃん。私があんな小さい子に何かすると思う?」
「小さい子とか関係ないよ。ルナは気に入らない相手によく悪戯をするんだろ」
「そんなの小さい頃の話、今は違うもん」
自分でも少し驚くぐらいのトーンの下がった声でルナを追い詰めた。ルナは笑いながらハンガーに掛けていたローブを羽織る、どうやらもう帰るつもりらしい。
「あっ、それよりお兄ちゃん送ってくれないの?久しぶりに一緒に空飛ぼうよー」
「悪いけど、あの子を探しに行かなきゃいけないから」
僕も僕とてコートを羽織り、革靴を履く。
「...ふぅん、そんなにあのちびっ子が心配なの?」
「心配だよ、まだ小さいんだから」
「なぁんだ、小さいから心配なんだ」
「それがどうかしたか、ルナ」
「だってそれって、大人になったら心配じゃなくなるんでしょ?」
ルナは嘲笑った。駄目だ、面白くない。ずっと大切にしたきたはずの妹だっていうのに、こんなにも嫌いになりかけてる。
「ルナ、何が言いたいのかハッキリ言ってごらん」
僕がそう促すとルナはふざけたのか、また冗談のような事を言い始めた。
「べっつにぃ?まぁ、あのちびっ子が大人になる頃には、ちゃーんと元の“お兄ちゃん”に戻ってるから大丈夫かなー」
「ルナ?」
「なんでもないっ、じゃね、お兄ちゃん」
ルナはそう言って手をヒラヒラと振ると、玄関を開けて外へ飛び出して行った、僕も後を追ったが、もう既にルナはそこには居なかった。
「...元に、戻る」
夕日でオレンジ色に染まった辺りを見渡し呟いた、その言葉がどうも心に執着して仕方ない。
「いや...探すか」
遠くに行ってない事を願いつつ、駆け足で辺りを探す。走って走って息が少しずつあがっていく、肩で息をするほど走った時、もう辺りが夜に近づき暗くなり始めているのに気づいた。
「はぁはぁっ、可笑しいな。大体探したはずなんだけど、ごほっ...」
あまり運動しない僕の体にはなかなか堪える。
「っ、一体何処に...森を抜けたなんて、事はないだろうし、いやでも」
あの子は僕を助けに来てくれた時、あの子は初めて自分の魔術でここに来たんだった。多少の誤差はあっても魔力さえあれば、確実に行きたい所へ行ける。
「でも、魔力を溜めたペンダントは僕が持ってるし...」
やっぱり森の中を探そうと、足を踏み出した所で気づき立ち止まった。
昨日の夜、僕があの子にペンダントを渡してあの子だけを逃した時、ペンダントに魔力は...
「ほんの、残りかす程度」
「...あの子、ペンダントの中の残りかすみたいな魔力と、あとは自分の魔力で全て補って僕の所に来たんだ」
そうだ、だから行こうとすれば、ペンダントなんてなくったって身一つで行けてしまう。もう移動魔術はあの子のお手の物なのかもしれない、あの子の中で昨日の夜、一つの魔術が完成された。
「そうか、あの子にはもう要らないのか...」
青のペンダントをじっと見つめた、何故か虚しくなる。
「まぁ、出来る魔術師はこんなの使わないんだけどね」
そう普通はこんなもの使わない、わざわざ魔力を何かに溜めてそれを使う行為なんて普通は誰もが面倒くさがる、だって自分の体から直接魔力を使えばいいのだから。
でも僕にはこのペンダントのように、自分の魔力を何か物に移さないと上手に魔術を使えない。これも記憶を無くしてからの事らしい。
「って、そんな事言ってる場合じゃ...!」
真の目的を忘れる所だった、僕は慌ててもう一度森の中を探し始めた。





