異世界生活基本の「言葉」
「マイヴィーナス?おーい、聞いてるかい」
トントンと固く閉ざされた扉を叩く、中にいるはずの彼女は一向に返事をしない。先ほどから叩き続ける事、約三分。
スーツからいつものラフなシャツにカーディガン、ジーンズというラフな格好に着替えてゆるゆるだった包帯も巻き直した。そして許しをこう為に今、彼女の部屋の前に立つ。
「さっきは言えなかったけど、助けてくれてありがとう。感謝してるよ」
「......」
「でも魔術は危険だから、今度使う時は僕を呼んでほしい」
繰り返す言葉に反応はなく、僕の声だけが響いている。
「ねぇ、居るんだよね?」
逆に心配になってくるほど静か、確かに扉が閉まる音がしたから部屋に居るはずなのだけど。
「どうでもいいんだけどね、さっきの、ポンコツ!はちょっと悲しかったかなぁ」
実際彼女に言われた「ポンコツ!」によって、そこそこ心に傷を負っているし、ポンコツという言葉が頭の中で繰り返されてる。
「朝ごはん作るからさ、ふわふわとろとろフレンチトーストとサラダでどうかな?」
「デザート付きだよ」
その一言でガタッとドアの向こうから物音がした、これは手応えがある。そう思っていたら、ドアがほんの少し小指一本分だけ開いた。
「出ておいで、ほら」
しゃがんで手を広げてみる、まぁ抱きついてはくれないだろうけど。
「...家主さんっ」
小さな体からふわりと花の香りがする、小さな手が僕の背中に回った。
「っと、まさか抱きついてくるなんて。甘えたくなった?」
「べつにっ何でもないですっ、気の迷いです」
思わず尻餅をついた僕だったけど、彼女はそんな事を言いながらも御構い無しにぎゅうぎゅうと抱きついてくる、これはとんでもなく可愛い。
「よしよし」
サラサラの髪を撫でる。
「ごめんね、どうにか出来なかったから怪我をしたのは僕だ。君が助けに来てくれて嬉しかった」
「じゃあ、もうあんな無茶しないでくださいね」
「うん」
家主が頷くと幼女は満足げに僕から離れて、花の咲くような笑顔で笑った。
「でも、どうにかしようとはしたんだよ?一つだけダメ元で言ってみたんだ」
「?」
そう、家主は家主なりにポンコツなりにどうにかして逃げようと思って、あの言葉を放ったのだ。
「何を言ったんですか?」
「...いや、恥ずかしいから言えない」
ダメ元とはいえ結局ダメだった、そしてその後ズタボロにされた事を思い出すと家主は恥ずかしくて仕方なくなった。そもそも冷静に考えれば、魔物相手にあんな事を言うなんてどうかしてたのだろう。
「むっ」
おっと、せっかく機嫌をとったのにまた頬を膨らませはじめた。仕方ない、恥ずかしいけど言うしかない。家主はそう思い渋々口を開いた。
「...その、シ、シットって」
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