異世界生活基本の「怖さ」
「まぁだから俺と気があったんだろうな、俺はお前ほどじゃないが」
そう、クロードもクロードで仕事に関してはかなり合理的主義。時間に厳しく無能な奴には見向きもしない、らしい。前の僕あってこその友達。
クロードの事も正直なにも覚えてない。前の僕の長い付き合い、何となく馴染みがある程度、でも会う度に印象は変わっていった。
「お前が記憶を取り戻せば、お前は5年前から再スタート出来る。代償として記憶を無くしてからの5年、今のお前の記憶は全て失われる。上書きされるんだ、今のお前を5年前のお前に戻させる」
何回も説明された話。前の僕なら一回ですぐに頭に入ったらしいけど、今の僕は頭の出来が悪いのか5回ぐらい聞かないと意味がわからなかった。 あとはまぁ年齢までは戻らないらしい。
王都の人が少ない細い道をクロードと歩いていく、建物が多いおかげで、日陰も多くてだいぶ風が涼しい。
「確かお前が記憶を無くす前は、あの研究の最中だったな。あの研究に没頭してるお前がもう一度見られるならそれは嬉しい」
だが缶詰めすぎて3回ぶっ倒れたんだったか。なんて、とんでもない発言をサラッとされた。
そんなに研究バカだったのか僕は、倒れるまでするなんて想像もできない。調べ物とかはまぁ好きだけど、さすがに休息は取る。
「お前放っておいたら一生研究してるんだろうなってぐらい研究に没頭してたから、数時間立ったら俺が休みを無理矢理にでも取らせてたんだ」
「まさかそんな...」
「ははっ、あれは面白かったな。いい加減休めって言ってるのにあんな時は子供みたいに研究室に張り付いて...ほら、あの子供みたいに」
クロードが視線を向けたのは、お母さんらしき人にお菓子をねだる小さな男の子だった。
「っ、クロード!」
「ははっ、悪い悪い」
クロードが珍しく声を上げて笑った、それに釣られて僕も怒りながらも笑ってしまう。クロードはいつも僕の話や僕に早く記憶が戻るようにと、暇があれば昔の話をしてくれている。
「クロード、もしさ僕が...記憶を...」
「何だ?」
「...いや、なんでもない。何でもないよ」
言えない。
5年も調べ続けてくれた彼にとっての耐えられない言葉になると思う。記憶を取り戻す事が怖いと感じていると、言えるはずがない。
怖いと言っても単純な話、今の僕が今の僕でなくなる事が怖い。僕は僕でしかない。でもいつか、記憶を取り戻せば僕ではない、冷酷な昔の誰かに僕の記憶を上書きされてしまうような、そんな感覚に陥ってしまう。
そんな事言ったって仕方はないけれど。
そしてこの5年楽しい事もまぁまぁあった、一つだけ見れば小さいけど全て思い出せば何日かは思い出話が出来る、あの子の事もまだ出会って1ヶ月だけど毎日新鮮で楽しい日々だ。





